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玉田圭司&田中達也 信頼の根拠を探る。 ――岡田ジャパンの秘めた志向
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byYuichi Masuda
posted2009/04/20 09:00
しかし、ゴール数が多くはないために起用を疑問視されることも少なくない。
岡田監督のチーム構想の中で、彼らはどのような役割を担い、何を期待されているのか。
しかめっつらをつくっていた。
バーレーンの激しい当たりにもひるむことなく体を張って1トップの役割をこなした玉田圭司は、後半34分に交代を告げられると、左ふくらはぎの痛みをやっと表情に出した。
激戦による代償に、超満員の埼玉スタジアムは拍手に包まれる。玉田はねぎらいの声援に応えるように頭の上で軽く両手を叩き、指揮官の岡田武史と握手を交わした。
シュートはわずかに1本、ノーゴール。
1トップのFWとして、数字だけ見れば物足りないように思えるかもしれない。だが、岡田は、エースナンバー「11」を着けた玉田のパフォーマンスを高く評価するように「お疲れさん」とばかりに背中をポン、と叩くのである。
玉田が岡田ジャパンに絶対必要な理由
玉田は'08年3月に代表復帰して以来、疲労を考慮されて招集されなかった今年1月のイエメン戦を除けば、今回のバーレーン戦を含めて実に14試合連続で先発出場を果たしている。岡田ジャパンでは16試合4得点で、ゴールは4試合に1点ペース。1トップの位置でポストプレーなど慣れない仕事を強いられている玉田を、エース不在のための“仮のエース”と見る向きも少なくはなかった。
それでも彼が、ずっとレギュラーの座を死守してきたことを考えれば、岡田にとっては“仮のエース”なんかではなく、信頼を置くエースとして扱ってきたのが分かる。日本人の敏捷性をいかした「パス&ムーヴ」を標榜する岡田ジャパンに欠かせないキーパーソンとしての姿が浮かび上がってくるのだ。
玉田が岡田ジャパンにおいて欠かせない理由とは――。
横浜F・マリノスで'03年から4年間、岡田のもとでプレーした元日本代表MFの奥大介の目に、玉田はどう映っているのだろうか。昨年、多摩大学目黒高校サッカー部の監督に就任し、“岡田サッカー”の真髄を知る奥は玉田起用の意図をこう説明する。
「岡田さんはアジア最終予選において、まずは“負けないサッカー”を念頭に置いたのではないでしょうか。リスクを背負う一方で、リスクマネジメントもしっかりやるというサッカー。そういう意味では、タイトなディフェンスがこなせるようになった玉田は理想的なFW」
奥が玉田を評価するポイントは大きく分けて(1)キープ力(2)スピード(3)仕掛け、の3点だ。
キープ力が導く“ゼロトップ”状態
(1)キープ力
「玉田の高いキープ力は、攻守にわたって大きな意味がある。守の部分では、きちんとキープすることによって、相手のカウンターを受ける確率が低くなる。今回の試合でも、クサビによく入っている割には、ほとんどボールを失っていない。僕がマリノスで岡田さんからよく言われたのは『スルーパスを出したら、止まるな』ということでした。これは今の代表にも共通する話。すなわち、チャンスだと思ったら中盤からでも最終ラインからでも、思い切って前に出て行く。それが前線でキープできないとなると、カウンターを食らったときに対応できなくなってしまう。
攻の部分では今、触れた部分と関わってきますけど、玉田がキープしてタメをつくることによって他のポジションの選手が上がっていける。岡田さんは玉田をチャンスメーカーとして期待しているところがある。守備のときは1トップですが、攻撃に移って玉田が引いてきてボールをキープすると、田中達也や大久保嘉人ら複数のプレーヤーがトップのラインに入ってくる。いわゆる“ゼロトップ”になるのですが、これも玉田にキープ力があり、引いてボールをもらうという特徴があるからこそ、できるシステムと言える」
スピードは最も計算が立つ戦力要素
(2)スピード
「玉田は闘莉王がボールを持つと、フィードを意識して即座に反応していた。スペースに流れて高い位置で起点をつくることができれば、よりチャンスになる。スピードをいかしてスペースに抜け出すことによって、相手のディフェンスも引っ張ることができる。これも守備との表裏一体であって、2列目のスペースをつくる一方で、高い位置で起点になっておけば、相手のディフェンスラインは下がるし、相手はカウンターに人数を掛けられなくなる。
マリノスで思い出すのが'04年のチャンピオンシップ。岡田さんはスピードのある坂田大輔と清水範久を2トップに置き、中盤を省略して前線の2人を走らせるサッカーをすることで、レッズのカウンター攻撃を封じることに成功した。ドリブルやシュートという部分では、その日によって波があったりするけど、スピードという部分はそこまでムラがない。だから、監督にとってみれば計算が立ちやすいんです」
仕掛けていってチャンスをもぎ取る
(3)仕掛け
「日本の決勝点となった(中村)俊輔のFKも、玉田がドリブルで突っかけて、セットプレーの機会を得たもの。玉田は今回、よく仕掛けていた。点を獲りたいという意識を強く感じたし、怖さがあった。横に逃げるドリブルではなくて、前に向かって相手を抜き去るようなドリブルが多く、キープ力があるから、止められそうになってもググッと前に出ることができる。そうなると相手はファウルしてでも止めようと思うから、日本の武器であるセットプレーのチャンスが増えてくる。
それと、クサビに入ったとき、玉田は速く反転して前に出ることができる。ポストプレーヤーの役割はそんなにうまくないと思っていたけど、懐が深くなって、やるたびにうまくなっている印象がある。今の代表メンバーでクサビからの反転の速さを持っているのは玉田と嘉人ぐらいのもの」
玉田はチームにおいて攻の部分だけでなく、守の部分でも、大きな役割を果たしていることが理解できる。奥が挙げた3つのポイントを、玉田は高い位置で実行に移しているため、より効果的になっている。引いてボールをもらう自分の特徴を見せつつ、今では前線で張っているというイメージも強くなってきた。
(続きは、Number727号で)