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イニエスタはメッシを超えるか。
~徹底検証・そのルーツと評価~
text by
横井伸幸Nobuyuki Yokoi
photograph byGetty Images
posted2009/11/05 10:30
今季は怪我で出遅れたが9月に復帰。今年のバロンドール候補にも選ばれた
パスではなくシュートを。イニエスタ、転機の瞬間。
「いま世界で最も完成された選手」
バルサとスペイン代表で200試合以上を共にしてきたシャビの評価は、おそらく正しい。
地味なルックスが災いし、これまで実力に人気が追いついてこなかった感のあるイニエスタだが、昨季は決定的なブレイクも果たした。その間接的なきっかけとなったのは昨年6月のユーロである。本番直前4、5キロ痩せるほど体調を崩したせいで、大会中のプレーは“並の”良い選手程度だった。しかし、スペイン代表ではただ1人全試合に出場。その経験が貴重な糧となり、続く1年、大きく成長したのだ。
「あの大会で自信がついたことに気付いた。ルイス(アラゴネス前代表監督)がとことん信頼してくれたんだ。気が楽になったよ。チームにとって大事なプレーが、自分にはできるんだってこともわかったし」
今年の5月末、エル・パイス紙のインタビューでイニエスタはこう語っている。
さらに、チャンピオンズリーグ準決勝チェルシー戦の第2レグで、決勝行きを決めたゴールが直接的なきっかけとなった。
あのときイニエスタはゴール正面、ペナルティエリアのやや外で、左にいたメッシからパスをもらった。
「ああいう形でボールを受けると、あいつは普通パスを選ぶ。だから僕は『アンドレス!アンドレス!』って叫んだのさ」
後方から走り寄っていたシャビは思い出す。
ところが「自信が増したおかげで、いろいろ思い切ったことができるようになった」というイニエスタは、トラップさえすることなく、迷わず右足を振り抜いた。
「メッシは成熟度の点でアンドレスに及ばない」
後日バルサファンを対象に行われたアンケートによると、昨シーズン最高の瞬間は、このイニエスタのシュートがゴールネットを揺らしたときだそうだ。サンティアゴ・ベルナベウでレアル・マドリーを2-6で下したときよりも、ローマで欧州王座を奪還し三冠を達成したときよりも、彼は人々を感動させたということになる。
その結果、イニエスタはファンの間で神格化された。単なるアイドルではない。それぐらいならフエンテアルビーヤの実家が巡礼地になったりはしない。カンプノウに「イニエスタ、俺の彼女に種付けしてくれ」という垂れ幕が掛かることもない。
そんなイニエスタを、今年のバロンドール賞に最も近いとされているメッシと並べて語る人がいる。大胆にも、わずかながら上だとさえ言う。ディエゴ・マラドーナを指導したこともある元アルゼンチン代表監督セサル・ルイス・メノッティだ。
「彼は現在のサッカー界に数人しかいない冒険家の1人。敵ゴール前で危険な男だ。いま世界最高の選手はイニエスタとメッシの2人だろう。ただしメッシは成熟度の点でアンドレスに及ばない」