#947
巻頭特集

記事を
ブックマークする

「今回は自分に勝てた」羽生結弦が演じた平昌五輪“7分20秒”の神話「モチベーションは4回転アクセルを跳ぶことだけでした」《舞台裏ドキュメント/2018年》

あまりにも大きな壁を乗り越え、五輪の舞台に立った王者。世界中を感動させた7分20秒の演技は、伝説となるだろう。だが、足首に負った怪我は、いまだ完治していなかった――。鮮やかな復活劇の背景にあった、壮絶な自分との戦いを追う。(初出:Number947号 [絶対王者の帰還]羽生結弦「7分20秒の神話」)

 圧巻の7分20秒だった。

 いや、圧巻という言葉では表しきれない。

 ショートプログラムの2分50秒、フリーの4分30秒。1秒たりとも目をそらすことのできない濃密な時間を、羽生結弦は氷上に体現した。

 2月16日、ショートプログラムはショパンの『バラード1番』。

 祈りのような緊張が静寂となって会場を包み込む中、リンクの真ん中に立つ。

 ピアノの音が鳴る。口元をかすかに動かし、首を回して、静かに滑り出す。

 冒頭は4回転サルコウ。美しい着氷に、静寂を破る歓声と拍手が場内を揺るがす。

 あらゆるエレメンツ(要素)が高い完成度を誇るばかりか、ショパンの独特の拍を見事なまでに捉えたその滑りに、観客すべてが引き込まれていく。

 そこはもはやリンクではなかった。白鳥が優雅に泳ぐ湖のような、樹氷に囲まれた静謐な森のような―いつしか別世界へと誘われていくようだった。

 完璧に滑り終えた羽生の得点は111.68。堂々、首位に立った。

陰と陽、その対極を表現するかのよう

 迎えた翌日のフリーは『SEIMEI』。リンクに降り立った瞬間、会場の背景色の紫との調和が、白の衣装を引き立たせ、高貴ささえ漂わせる。

 冒頭はショートと同じく4回転サルコウ。6分間練習ではしりもちを突くなど苦しんだのが嘘のように、しっかり決めてみせる。

 ショートとは異なり、予定していた4回転トウループからの3連続ジャンプは単発に、3回転ルッツは着氷でこらえる。だがそうしたミスによって、羽生の作り上げる世界観が揺らぐことは微塵もなかった。

特製トートバッグ付き!

「雑誌+年額プラン」にご加入いただくと、全員にNumber特製トートバッグをプレゼント。
※送付はお申し込み翌月の中旬を予定しています

photograph by Asami Enomoto/JMPA

0

0

0

この連載の記事を読む

もっと見る
関連
記事