2006年夏の頂点をかけた戦いは「死闘」と語り継がれてきた。
確かに伝説の要件は備えている。3連覇を目指す駒大苫小牧と、3度目の決勝進出にして初優勝を狙う早稲田実業。感情をむき出しにする剛腕・田中将大と、青いハンカチで涼やかに汗を拭う“王子”斎藤佑樹。対照的な絶対エースは甲子園のマウンドに足跡を重ね続け、再試合を含む計24イニングを費やしたすえに1点差で勝敗は決した。この大会で田中は742球を、斎藤は史上最多の948球を投げた。
'26年夏の札幌で、2人の元捕手が取材に応じた。駒大苫小牧の正捕手だった小林秀と、控えだった及川雅哉(現姓中谷)だ。
「取材関係はずっと断ってきたんです」と話し始めたのは小林だった。
「勝手にドラマを作られるのが好きじゃなくて。自分たちの思い出はそのままにしておきたかった」
長らく回顧の機会を持ってこなかったせいか、あれだけの大舞台であったにもかかわらず覚えていることは決して多くない。20年ぶりに開けた宝箱から記憶の断片を探り出すようなインタビューになった。
決勝戦に臨む際の心境を、小林はこう振り返る。
「勝って当たり前の感じというか、自分たちが優勝すると勝手に思ってましたね。やっと北海道に帰れるなって」
隣の中谷が「先輩たちも負けることがなかったので」とすかさず補う。熱のある証言を期待していた筆者の耳に、死闘の当事者たちの言葉は拍子抜けするほど淡々と響いた。
だが、彼らが置かれていた状況を思えば、「結局は勝つ」と考えたのは必然だった。小林らが入学した'04年春から駒大苫小牧は公式戦29連勝('05年センバツ2回戦で敗退)。'05年地区大会から再び勝ち続け、48連勝で'06年夏の甲子園決勝にまでたどり着いたのだ。大差で劣勢に立たされた試合も、最後には勝っていた。
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