#1149
巻頭特集

記事を
ブックマークする

ダルビッシュの夏を終わらせた三塁手…22年後に浮かべた“笑顔”と“涙”の理由とは?《最強右腕「甲子園ラストゲーム」の真実》

2026/08/07
試合後の両チーム整列時、ダルビッシュは白熱の投手戦を繰り広げた千葉経大付のエース松本と抱き合い、笑顔で健闘を称え合った
泥上の激闘はまさかのワンプレーで振り出しに戻った。超高校級右腕を擁した優勝候補はなぜ伏兵に敗れたのか。22年の時を経て、4人の当事者が葛藤の足跡を辿る。(原題:[聖地ラストゲームの真実]ダルビッシュ有「雨に奪われた最後の1アウト」)

 ますます大きくなる雨粒でずぶ濡れになりながら、心の中で祈っていた。

 俺のところに飛んでくるなよ――。

 ところが、嫌な予感はときに最悪の形で的中するものである。

 1-0で迎えた9回表2死三塁。三塁の正面にゴロが転がった。白球が泥にまみれて茶色に染まっていく。東北の三塁手・横田崇幸は両足が鉛のように重たくなっていく感覚を覚えた。

 ボールを弾いた。慌てた。一塁ベースの方向を確認できないまま、無我夢中で右腕を振った。悪送球――。痛恨のタイムリーエラーを犯したところで、彼の記憶はいったん途切れている。

「YouTubeで見返したら、エラーのあとに一度、マウンドに集まっています。でも、どうにもそのシーンを思い出せないんです。僕のエラーがなければ、ダルは3試合連続完封を達成できていた。あまりに申し訳なさ過ぎて、もう放心状態だったのだと思います」

 記憶は1-1の9回裏から再開される。先頭は4番の横田。野球人生で初めてホームランを狙った。

「自分のミスは自分で取り返さないといけないと思って……。力み倒しました」

 平凡なサードゴロ。大柄な4番打者は悠々アウトのタイミングで一塁ベースにヘッドスライディングした。泥だらけのユニホームでベンチに戻ると、屈託ない笑顔のダルビッシュ有が待ち構えていた。

横田崇幸 Takayuki Yokota 東北高3年春は甲子園で大阪桐蔭から本塁打。高校通算33本塁打。東海大、鷺宮製作所を経て今は木材を扱う山大で働く Yuki Suenaga
横田崇幸 Takayuki Yokota 東北高3年春は甲子園で大阪桐蔭から本塁打。高校通算33本塁打。東海大、鷺宮製作所を経て今は木材を扱う山大で働く Yuki Suenaga

相手エースが感じとった勝機の拡大

 2004年8月17日の甲子園3回戦第3試合。試合は午後1時54分に始まった。直前の試合で横浜が明徳義塾との接戦を制した頃には、すでに薄暗い空から小雨が降り始めていた。天気予報によれば、夕方になるにつれてさらに天候は悪化するという。次の試合を戦う選手たちの多くは「中止だろうな」と早合点していた。そんな雰囲気をよそに、主催者サイドは試合開始に向けて粛々と準備を進めていた。

全ての写真を見る -4枚-
特製トートバッグ付き!

「雑誌+年額プラン」にご加入いただくと、全員にNumber特製トートバッグをプレゼント。
※送付はお申し込み翌月の中旬を予定しています

photograph by Asahi Shimbun

0

0

0

関連
記事