イチローは、今年もオールスターゲームの主役だった。
それは、結果的にMVPを獲得したからということではない。マニー・ラミレス(レッドソックス)は、またもイチローを捕まえて「打つとき、どうしても顔が前に動いちゃうんだけど、どうしたらいいんだ」と、相談を持ちかけてきた。アレックス・ロドリゲス(ヤンキース)はイチローに教えてもらったアップの方法を「今もあれでいいのか」と確認にやって来た。カール・クロフォード(デビルレイズ)やグレイディ・サイズモア(インディアンズ)までもが、イチローのもとへやってきて、あれこれと質問攻めにしていた。
これは、試合開始前のことだ。ア・リーグのクラブハウスで行われたチーム・ミーティングで、ジム・リーランド監督(タイガース)の話がひとしきり続いたあと、最後に選手たちに「誰か、他に何かないか」と訊ねた。すると、デイビッド・オルティス(レッドソックス)が名乗りを上げた。彼は「話したいことがある」と切り出すと、こう続けた。
「今年もイチローに話をさせろ~ッ」
最近のア・リーグで恒例になっている、イチローの“檄”。今年も常連メンバーの一人、オルティスがイチローに水を向けた。盛り上がる選手たちの輪の中心に向かって、イチローがのっしのっしと歩いていく。
「ヘイ、みんな、よく聞けよ」
さすがに役者はこういうときに盛り上げる術をよく知っている。イチローが何をするのか知っている選手たちは笑いを必死で押し殺しながら、また初めての選手たちは何が起こるのかと息をのんでイチローの言葉を待つ。
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