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【独占インタビュー】「本当にすごい英断でした」武豊が語るドウデュースとの“鮮やかな復活”と「ノリさんだからできたこと」

2024/05/19
5月12日にJRA通算4500勝を挙げた武豊。ダービーでも歴代最多6勝
あれから4カ月が過ぎても、有馬記念で魅せたドラマティックな結末はいまだに色褪せない。復活に至るまでの日々と、ドウデュースとの野望、そして騎手としての職業観について大いに語った。(原題:[特別インタビュー]武豊「鮮やかな復活と、ジョッキーの誇り」)

 2023年10月29日、天皇賞・秋の当日。東京競馬場には朝イチから大勢のファンが詰めかけて、普段とは明らかに違う大きな盛り上がりを見せていた。昼休み明けの第5レースは2歳の新馬戦で、全馬がデビュー戦。ブラックライズに騎乗して7着に入線した武豊騎手は、枠場に帰ってきていつものように脱鞍作業を行なったが、その際にたったいままで騎乗していた馬から繰り出された鋭い蹴りを、右膝の少し上の部分に浴びてしまった。武の長いキャリアでも初めての経験だったという。

「当たった瞬間からもちろん痛かったんですが、当初はその後のレースの騎乗に支障が生じるほどではないと軽く考えていました。骨は無事なはずと長年の経験でわかりましたからね。実際、痛みが少し引いてきたタイミングで、“よし”と声を出して立ち上がったら、そのまま普通に歩けたんですよ。その次の騎乗は9レースで、エッセレンチという蛯名正義厩舎の馬だったんですが、前検量もちゃんとできて、量り終えた鞍をエビちゃんに手渡して、“乗る”って言いましたからね。でもやっぱりまだ痛いなとは感じていて、座ってアイシングをしていたら、そのうち立てなくなりました。患部はみるみる腫れてくるし、あまりの痛さに貧血みたいな気持ち悪さまで感じたほど。イヤな汗が湧くように出てきて、シャツがビショビショに濡れたのも初めての経験でした。骨折以外の怪我では断トツに痛かったですね」

 ドウデュースと挑むはずだった天皇賞の騎乗もキャンセルのやむなきに至った。医師の診断は筋挫傷。武が直感した通り、骨は損傷していなかったが、だからといって軽傷ではなかった。念のためにと様々な伝手をたどって多くのスポーツドクターの診察を仰いだが、医師たちは口を揃えて「こんな筋挫傷、見たことない!」と目を丸くした。スポーツ中の筋挫傷は野球のデッドボールやラグビーの激しいタックルで負う例が多いそうだが、「160kmの豪速球が当たったとしても、こうはなりません」と驚かれたという。

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photograph by Kiichi Matsumoto

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