監督復帰1年目の岡田彰布が若い選手とペナントを持って場内を歩いていた。列の最後尾に連なる今岡真訪にとって、ずっと見てきた「80」の背中が、この日ばかりは一層大きく映る。打撃コーチとして岡田野球を支える参謀が、感慨深げに振り返った。
「岡田監督が作り上げた打線になりましたよね。選手の気持ちを考えることは大事だと思いますが、監督を見ていて、距離を詰めすぎてはいけないと学びました。監督は口数が少ないですが、誰よりも選手の言動や心理を見ていると思います」
佐藤輝明に施した荒療治が一例だろう。春先から打撃が上向かず、直接指導した。それでも現状を打開できず、6月には二軍降格も命じた。2年連続20本塁打以上の主力にとって2年ぶりの屈辱だ。現役時代、岡田が二軍監督だった頃から薫陶を受けてきた今岡は指揮官の胸中をこう察した。
「監督は必要な時にだけ、必要なことを指導しています。佐藤にとっても、教えられたことや苦しんだことは自分の引き出しになります。結局、自分で考えなさいという監督のメッセージだと思います」
岡田は選手と一線を画す監督である。
65歳で孫もいる。以前と比べて選手に話しかける機会が増え、距離が近くなったと評されるが本質は変わっていない。寡黙さが醸し出す威厳は、選手と指導者のフレンドリーな関係が濃くなった近年のスポーツ界では異質だが、この独特の距離感こそ、選手を操る「岡田マジック」の根幹にある。
選手に何を言うかより、何を言わないかが大事。
今岡もまた、岡田と同じように寡黙で、グラウンドで選手に打撃を教える光景はほとんどない。試合前練習では打撃ケージの後ろを動かず、ただひたすら見ている。
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