日本に生まれ、JUDOとして世界中で親しまれている柔道。2017年には「有効」が廃止されるなど、時代とともにルールは変わってきた。
ルール変更の目的は魅力的な試合を増やすため。これと並行して、実は柔道衣の規定も変わってきた歴史がある。
2008年北京五輪では消極的な試合運びが目立ち、関係者は危機感を募らせていた。そこでIJF(国際柔道連盟)は認定柔道衣制度を設けることで、柔道衣の統一化を図る。分厚くつかみにくい柔道衣が横行し、投げ技が決まりにくくなっていたからだ。
このときIJFのスタンダードづくりに大きく貢献したメーカーがある。1918年創業、九櫻ブランドで知られる「早川繊維工業(現・株式会社九櫻)」だ。GHQ占領下における武道禁止の時代も知る老舗は、柔道が公式競技に採用された1964年東京五輪で日本柔道選手団に柔道衣、帯を提供。2016年リオ五輪でも、ロシア、モンゴル、ウズベキスタンの選手が同社の道衣を着て表彰台に上がった。
九櫻の柔道衣が、国内外で評価されているのは、他社には見られない工法で質の高い柔道衣をつくっているからだ。
東京支店の支店長、川内洋さんがいう。
「柔道衣の上衣上部はつかんで投げるので強靭さが求められ、そのため刺子生地でなければならないという規定があります。江戸時代の火消しが持つ纏も、刺子でできていました。弊社は、糸で生地を織るところから縫製まで自社で行なっていますが、そうした生産体制を貫いているのは世界でもウチだけです」
柔道衣はその性格上、感触が硬くなり、肌が擦れるという課題がある。だが九櫻の柔道衣は強靭でありながら、着心地がいいことで知られる。それは生地を自社で織っていることが大きい。IJFでは五輪や世界選手権などが開催される前、審判講習会を開催して判定基準の確認などを行なうが、そこで参加者が決まって着用するのが九櫻の柔道衣。こうしたところからも信頼の高さがうかがわれる。
2017年、IJFは認定柔道衣制度をさらに厳格化させたが、いち早く基準を満たしたのが九櫻。このとき同社が開発した最高級柔道衣「大将」は、上衣とズボンを合わせて税込3万7400円。伝統工芸品を思わせる質感や手の込んだ製造工程を考えればむしろお手頃で、訪日する外国人柔道家たちはこぞって買い求めるのだ。