2点差を追う明徳義塾戦の9回、観客の声援の後押しもあり、流れは横浜に傾いていた。そして絶体絶命からの逆転劇の翌日、松坂はノーヒットノーランでの優勝で大会を締めくくった。
明徳義塾との準決勝、2点を追う横浜の9回裏の攻撃は9番の佐藤勉がヒット、1番の加藤重之はバントヒット、2番の松本勉の送りバントがミスを誘ってノーアウト満塁。そのすべてが初球攻撃で、横浜はたったの3球でビッグチャンスを手にした。
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9回、ノーアウト一塁からの重之のセーフティのようなバントは、それまでに見たことがなかったので驚きました。彼は足が速いので送りバントもセーフティ気味になって、結果、それが内野安打になることはありましたが、あの打席は明らかに狙って転がしたセーフティバントでしたからね。絶対にセーフになるという重之の強い意志があったんでしょう。最低限、ランナーを送って、運がよければ自分も、というあのセーフティバントは、たぶんノーサインだったと思います。それでも初球、あっさり決めてみせる……そんなことができるのは、年イチあるかないかという場面やプレーを想定して、そのためだけの準備をしてきている横浜高校の強さだったと思います。
しかもあのとき、重之は左打席に立ちました。重之は新チームになってからスイッチヒッターの練習をしていたんですが、甲子園では右ピッチャーのときに一度も左打席に立っていませんでした。聞けば小倉(清一郎)部長は重之に「右のサイドハンドが出てきたときのために左を練習しておけ」と言っていたらしいんです。あのときの明徳の高橋(一正)君はサイドハンドの右ピッチャーでしたから、そういうときのための左だったということですよね。
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photograph by Kiichi Matsumoto