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松坂大輔「負ける気がしない6点差」(連載20)

2023/03/22
前日のPLとの激闘で250球を投げた松坂は明徳義塾戦では、レフトでの出場となる。エースを欠く横浜は投手陣が崩れ、残り2イニングの時点で6点のビハインドを強いられることに。

 延長17回の末、PL学園を破った横浜は準決勝へ勝ち上がった。しかし横浜のマウンドに松坂大輔の姿はない。明徳義塾のエース、寺本四郎は「99%、大輔が出てこないほうがいいに決まってる、でも1%は大輔に勝ちたかった」と打ち明けた。4番に入った松坂は、レフトを守っていた。

◆◆◆

 レフトから見ると、マウンドって遠いなと思いました。外野から見るマウンドってこんな遠かったんだって……外野を守ることは僕にとっても珍しいことではなかったので、そういう景色が初めてだったわけではありません。でも、あのときの甲子園で感じたときほど、外野から見るマウンドが遠くに見えたことはありませんでした。なぜだったんですかね……投げたいと思っていたからかな。自分がいるべき場所はマウンドだと思っていたから、遠く見えたんでしょうね。あの日は、自分で「投げます」と言えば投げられるマウンドじゃなかった。(前日、250球を投げていたため)右腕にテーピングを捲いて試合に出ていた僕にとっては投げちゃいけないマウンドだったから、遠く見えたのかもしれません。

 先発は2年生のサウスポー、袴塚健次でした。袴塚は立ち上がりから毎回、明徳にヒットを打たれて、4回表、先制点を与えてしまいます。じつは僕、点を取られる前から自分なりにアピールしていたんです。

『いつでも代わりますよ』って……いや、そう言ったわけじゃないんですよ。僕は「投げます」と言いにいくタイプではなかったので、言葉にはしていません。いつもはいない(渡辺元智)監督のそばにいたり、しょっちゅう監督のほうを見て目を合わせやすくしたり、投げる準備をするような仕草をして“行きますよアピール”をしたりして、監督が声をかけるのを待っていました。それでも監督は僕のほうを見ないし、このままじゃ打ち勝つしかないと覚悟しました。

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photograph by Kiichi Matsumoto

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