「藤井曲線の定義ですか? 基本的には右肩上がりの単調増加関数みたいなグラフを言うのだと思います」
こう語る谷合廣紀四段は東京大学大学院情報理工学系研究科電子情報学専攻博士課程に在籍する異色の棋士。大学院で取り組んだAIの研究が評価され、自動運転ベンチャーのエンジニアとしての顔も併せ持つ。昨年末に『AI解析から読み解く 藤井聡太の選択』(マイナビ出版)を上梓し、「藤井曲線」というキラーワードをよりホットにさせた。
藤井曲線とはAIが藤井聡太竜王の完勝譜の一手ごとの局面を評価した値を結んだ形勢推移の線を示す。飛行機のフライトのように、最初(序盤)は低空飛行で、徐々に上昇していき(中盤)、最後(終盤)は遥か上空に羽ばたいていく。そのなだらかな曲線美は芸術の域に達している。
「悪手を指してしまうとガクッと一気に下がってしまい、なめらかな曲線にはなりません。藤井さんはいい手だけを指し続けているので単調増加し続けるのです」
藤井曲線は王道で理想的な勝ち方と結びつくと谷合は説明する。
「私も公式戦で指した将棋を帰宅してからAIに解析させてプロットを打ちます。藤井曲線みたいに理想的なグラフになっていると『今日はいい将棋が指せたな』と充実感に浸れるんですよ。勝てばどんな展開であってもいいともいえるのですが、ファンの方に見ていて強いと感じてもらえるのは、そういった将棋なのかなと思います」
藤井竜王の好手ばかりがクローズアップされがちだが、棋譜は2人の対局者が紡いでいくもの。最善手や限りなく最善に近い次善手のラリーが続くからこそ、初手から終局まで拮抗した展開になって美しい曲線が描かれるのである。特に4強と称される藤井竜王、渡辺明名人、永瀬拓矢王座、豊島将之九段の対戦では芸術性に満ちた将棋が生まれる可能性が高い。
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