落胆を高揚へ変えるのは矜持である。そいつがあれば試練にも実力を磨ける。
畠山健介を書くのだが畠山健介のことではない。豊田自動織機シャトルズ愛知についての書き出しだ。リーグワンのディビジョン分けで「3部」を告げられた。トップリーグのひとつ下のトップチャレンジリーグ1位、いわば「2部の覇者」であったのに審査はなんともつれなかった。
気持ちは沈む。当然だ。でも誇りを抱いて前を向く。これも当たり前だ。ラグビーと人生は続くのだから。
そこへ空飛ぶ横綱がやってきた。だれが呼んだか「フライング・ヨコヅナ」。ジャパンで78キャップ。アンカー(船をぐらつかせぬイカリ=右プロップ)として、その数だけのテストマッチに出場してきた。無慈悲な巨人国、南アフリカの猛者に「まさかこんなことが」と人間の深みを教えた痛快もある。2015年9月の出来事だ。
あれから6年、2021年の10月、シャトルズへの入団が明らかとなった。
「ディビジョン1、2と比べても、選手の能力で劣るわけではない。ポテンシャルはあります。そこにコミットできて楽しい」
本拠のある愛知県刈谷市に単身赴任で暮らす。この日の午前も近隣の小学校で鬼ごっこのようなタグラグビーの講師を務めるチーム活動に励んだ。
「子どもたちにシャトルズの名を覚えてもらう機会です。キャリアの中盤くらいに感じたのですが、ラグビーについて『ゼロ』の人を『1』にすることに価値がある」
桜の花となれたから草の根の大切さもわかる。36歳。若き日、早稲田大学の体重126kgの3番は、86kgの7番みたいに地面のボールをさらい、76kgの10番のごとくゲーム構造を熟知していた。組んでよし。駆けてよし。パスがまたうまい。おそらくキックも上手だろう。万能プロップは軽やかだった。横綱は空を飛んだ。
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