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末續慎吾「動物的フォームの“表現”は続く」~世界の表彰台に上った男~

2021/07/08
今も200m20秒03の日本記録を保持し、'03年世界陸上では短距離種目で日本人初となる銅メダルを獲得した。可能な限り無駄を排除し、風のように駆け抜けた男は、41歳となった現在も独自のフォームを追求し続けている。

 柔和な顔がパソコンの画面をのぞき込んだ。末續慎吾が視線を送ったのは、TBSが最近ユーチューブにアップした2003年世界選手権男子200m決勝の映像。18年前、「マッハ末續」と呼ばれた23歳がパリ郊外のサン・ドニのスタジアムを懸命に駆けていた。

「やっぱり減速しているな。コーナーの出口の前。(スタートから)70mの手前くらいで左脚がぴりって肉離れしたんです。それがなければ金メダルだったかもしれない。タラレバは好きじゃないけど」

 淡々とした口調に虚勢や後悔の響きはない。映像をもう一度、再生する。確かに最もスピードが乗った直後の挙動がおかしいようにも映るが、解説されなければ分からない程の小さな変化だ。

「残り100mちょっとは頭が真っ白だった」

 7人の黒人選手との大接戦。上半身の動きで体を引っ張り、ジョン・カペル、ダービス・パットンの米国勢に次ぐ3位、銅メダル。日本男子がスプリント種目で表彰台に立ったのは、五輪、世界選手権を通じて史上初の快挙だった。これに続く日本選手は、まだ現れていない。

完璧ではなかったけどメダルをもぎ取れた

「まあ、準決勝でガス欠だったってことでしょう。余裕を持って大会に臨んだつもりだったけど、1次予選、2次予選、準決勝、決勝と3日間戦う中で体力的に削られてたんだな、と。コーナーで軸になる脚に問題が発生している訳ですから」

 確かに、その通りなのだろう。でもそれは、完璧ではなかったけどメダルをもぎ取れた、と捉えることも出来る。

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photograph by Kiichi Matsumoto

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