4歳で卓球を始めて以来、何度、旅支度をしたのだろうか。特にこの3年間、早田ひなは所属する日本生命レッドエルフでTリーグを戦いながら、世界各地を転戦した。
帰国したら、また出発。オマーン、パラグアイ、ベラルーシ……。東京五輪出場条件の世界ランク日本人上位2名に入るために、規模の小さな大会にも参加し続けた。
ラケットやウェア、日用品などとともに、スーツケースに必ず詰め込むものがある。
可愛らしいひよこが描かれた、小さめの毛布。7歳の頃から愛用する1枚だ。これさえあれば、慣れない土地のホテルでも、心を落ち着かせることができた。
「枕やベッドは、どんなものでも大丈夫。でも、あの毛布がないとダメですね。実家の布団の匂いなんですよ。ホテルに着いたら、まず匂いを嗅ぎます。あの毛布があれば、実家での安心感を持ち歩けるんです」
2018年に開幕したTリーグでは、初代MVPに輝いた。ダブルスでは、ワールドツアー・グランドファイナルを2度制し、伊藤美誠と組んだ'19年の世界選手権では銀メダルを獲得した。
しかし、シングルスでは思うように世界ランクを上げられなかった。中国の強豪選手と大会序盤で当たる“悲運のくじ引き”も続いた。東京五輪への切符は伊藤と石川佳純の手に渡り、団体戦に出場する3人目の日本代表には平野美宇が推薦された。
地球を何周もした旅は、報われなかった。
自分の中だけに留めておきたいノート。
「海外遠征の連続は、今思えばつらかったですね。当時は目の前の試合に勝つことに必死で、つらさを感じる余裕もなかった。五輪の落選が決まったときは、もちろん悔しかったです。ただ、昨年の成績を考えたら難しいだろうと、自分自身でも覚悟はしていました。だから、きっぱりと切り替えたんです。あのときの気持ちは、メディアの方にも話していませんし、誰かに相談もしていません。ひたすら自分と向き合って、ここから変わるためには何が必要かを考えて、それをノートに書き込んだんです。ノートの中身については……ごめんなさい。自分の中だけに留めておきたいんで、お見せできないんです」
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