#1002
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<令和の怪物の可能性に迫る> 佐々木朗希「163kmの“虚像”を超えて」

2020/05/14
ロッテでは吉井理人一軍投手コーチに指導を仰いでいる。
身長190cmの長い手足を生かしたダイナミックなフォームから繰り出す剛速球は、実戦デビュー前から周囲の度肝を抜いている。最速163kmの黄金右腕が秘める潜在能力とは。(Number1002号掲載)

 163kmは肉眼で見ていない。カメラのファインダー越しに、佐々木朗希のフィニッシュまでを追いかけていた。投じられた白球は、横目で残像を何となく感じ取るだけ。他の直球と明らかに違うような、際立つ衝撃を感じたわけでは決してなかった。

 スコアブックにボールの印を付け、隣にいた旧知のスカウトの「おおっ、161だ」という驚きの声にこちらも驚き、再び撮影へ……と思っていると、10秒ほどで口コミが伝播してきた。

「さっきの、163だって。中日の(スピード)ガンで」

 2019年4月6日午後2時25分。奈良県内での高校日本代表候補1次合宿紅白戦で、不意を突くように、国内高校生史上最速記録が生まれた。

 歴史的快速球への興奮を抑えつつ、再びファインダーを覗く。どんな表情をしているのだろう。佐々木朗希は「163」のことなど知る由もなく、打者と対峙していた。大船渡高校伝統のピンストライプをまとい、相手を射貫くような眼差しで投げ続ける。白い歯を食いしばるその向こうには、古都の桜が色づき始めていた。新元号が発表されたばかりの、うららかな日だった。

コンビニでもらった景品のタオル。

 その少し前、大船渡高校野球部は大型バスに乗り込み、5日間の関東遠征に出向いた。秋に157kmをマーク。すでに「高校四天王」の1人と評されており、取材解禁となった遠征初日にはスポーツ紙3社が訪れた。しかし2日目以降は私1人になり、ぼーっと立っていたら「取材、ありますよね?」とわざわざ話しかけてくれた。寒く、お互い顔が紅潮していた。

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photograph by KYODO

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