#996
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<2023年への鼓動(2)> 武井日向「紫紺の対抗心を見よ」

2020/02/11
強い心を内に秘めた小柄な青年は、4年の時を経て、見るものを圧倒する「重戦車」の核へと変貌した。大学屈指のタレント集団を束ねた頼れる主将が、成長の糧となった同世代へのライバル意識を語る。(Number996号掲載)

 大学選手権で2連覇に挑んだ明治大学。決勝では早稲田大学に敗れたものの、前半の0-31という大量ビハインドから驚異的な反撃を見せ、最終スコアは35-45。後半に限れば35-14と圧倒して、自分たちのプライドとポテンシャルを、5万7345人の観衆の前で証明してみせた。

 その翌日、1月12日にトップリーグが開幕した。明大のキャプテン・武井日向は、世田谷区八幡山の寮で、インターネットのライブ中継とテレビのハイライトでトップリーグの開幕戦を観戦した。

「トップリーグはどのチームもレベルが上がっていて、どの試合もどっちが勝つかわからない試合ばかりですね」

 武井は静かな口調で言った。春からはトップリーグのリコーに身を置く。

「僕自身、高校に入るときに『自分はラグビーで生きていく』と決めて、『やる以上はトップでやりたい』と思っていましたから」

 中学までは勉強で身を立てるつもりだった。学校の成績はオール5。兄も進んだ、医療関係の道を目指していた。医師の家系に育ったわけではなく「小学生の頃、祖母が病気をして、助けたいと思ったのが始まりです」。しかし、ラグビースクールに通っていた中学3年のときに栃木県選抜に選ばれ、日本代表SO田村優の母校・国学院栃木の吉岡肇監督から誘いを受けたことで、ラグビーというスポーツで生きていくことを決めた。

「なぜか? 明治だから」

 武井は171cm、97kg。決して大柄ではない。高校時代のポジションはNO8。190cm級がひしめく中、機動力、運動量を武器にFWのエース格で活躍したが、高校日本代表候補にはフッカーで招集された。FW第3列で世界を目指すにはサイズが足りないという通告だったが、そのフッカーでも代表には落選。明大には、同じフッカーで高校日本代表に選ばれた松岡賢太(京都成章高)と一緒に入学した。松岡は高校時代からフッカーで、スクラム、ラインアウトといったフッカーの仕事にも熟練していたのに対し、武井は素人同然だった。最初は、苦手な分はNO8で磨いた走力で勝負しようと思っていた。だが滝澤佳之スクラムコーチの言葉が武井の意識を変えた。

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photograph by Masataka Kougo

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