#992
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<東京五輪へ繋がった名勝負> 中村匠吾「最高峰のスパート合戦」

2019/12/14
MGCを彷彿とさせる集団での高度な駆け引きと心理戦、そして箱根駅伝史上最高レベルのスパートの仕掛け合い。あの年の1区には日本マラソンの可能性が映し出されていた。(初出:Number992号<東京五輪へ繋がった名勝負>中村匠吾「最高峰のスパート合戦」)

 大迫が来る。1区に早稲田大学の大迫傑が来る!

 2014年の箱根駅伝を前に、12月の上旬ころから、参加校の間にはそんな噂が流れ始めた。'11年に早大が「大学駅伝三冠」を達成した時には、1年生だった大迫を箱根1区に起用して奇襲をかけ、それが見事に奏功していた。

 早大は同じプランで来る。ならば、他の学校はどうするか?

 前年優勝の日本体育大学、'12年に柏原竜二が卒業し、2年ぶりの優勝を狙う東洋大学、中村匠吾、村山謙太と学生長距離界を代表するランナーをそろえる駒澤大学にはそれぞれの思惑があった。

 本来であれば、この年の1区でもっともスポットライトを浴びるのは駒大の3年生・中村になるはずだった。この年の中村は出雲、全日本の1区で区間賞を獲り、「1区のスペシャリスト」と見られていた。だが、5000m、1万mで日本人学生ナンバーワンの記録を持っている大迫が来るとなれば、主役の座は譲らざるを得ない。

大迫を逃さない、というミッション。

 中村はレース前のことをこう振り返る。

「'11年は、大迫さんが区間賞を獲って、そのまま早稲田に主導権を握られてしまった――そんなイメージが大八木監督にあったようです。そうさせてしまっては厄介になるので、とにかく逃がさないというのが僕のミッションでした。1区は17.6km地点の六郷橋がひとつの仕掛けどころになるので、そこまでは大迫さんについていき、中継所までに揺さぶりをかける作戦を立てていたんです。ところが、箱根直前になって脚に不安が出てしまい、万全の状態でスタート地点に立てたわけではなかった。その点はいまでも悔やまれます」

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photograph by Asami Enomoto

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