魂を懸けて臨んだプールステージ最終戦、ティア1の強豪国を相手に真っ向から挑んだ桜の勇者たちは、新たな歴史の扉を開いた。勝負の命運を分けた“大切なもの”とは何だったのか。(Number988号掲載)
となりの人の声が聞こえない。
10月13日の横浜国際総合競技場。ラグビーワールドカップの決勝トーナメント進出へ、最後の椅子をかけたプールステージのファイナルマッチ。スタジアムを埋めた観衆は6万7666人。ラグビー日本代表が国内で戦った試合では正真正銘、史上最多の観衆が集結し、桜のジャージーに向かって声をからした。
スタンドの歓声が最高潮に達したのは、日本がスコットランドを28-21とリードして迎えた残り2分だった。自陣ゴール前に攻め込まれた日本が、CTBラファエレティモシーのタックルを起点にボールを奪う。
そして、スコットランドのサポーターを除く推定6万人強の気持ちはひとつになった。残り1分余りボールをキープすれば、夢にまでみたワールドカップの決勝トーナメント進出。それもプール戦1位通過を、4戦全勝で決めることができるのだ。「仮に負けても4トライ以上を取って、相手のトライ数を……」そんなめんどくさい話はカンケーない。全部勝ちゃあいいんだ!
その瞬間は目の前だ!
ピーター・ラブスカフニが、坂手淳史が、パスを受けては密集サイドを突く。一縷の望みを胸に襲いかかる濃紺の一団を、桜のジャージーが塊になって押しのける。途中出場のSH、34歳の田中史朗がじっくりと相手を見渡し、時間を稼ぎながらパスアウト。FWツイヘンドリックが、姫野和樹が、相手タックルに向かって前進。そこにWTB福岡堅樹も、SO田村優も、CTB松田力也らBK陣も頭を突っ込んで足を動かす。もはやボールの所有権は動かない。スタンドでカウントダウンが始まる。
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photograph by Naoyoshi Sueishi