著者の“小さな旅”の本を紹介したいと思っていた。山旅か街の徘徊記か、小動物ものにするか。迷うところに新刊の本書だ。四十五冊の散歩本のどれもが読みたくなる名調子で並んだ。さらに、著者は、散歩の舞台に足を運び、「おすすめスポット」として、自身の素朴なカラーイラスト付きで一五〇字ほどの短文を加えた。本へのいざないと共に、書き手の遊び心が読者への散歩ガイドのサービスになっている。面白い、しゃれている。
「永井荷風の『日和下駄(ひよりげた)』は、散歩本のなかでも“超”のつく古典である。大正四年(一九一五)、世にあらわれた。百年あまり前の東京散策記である」と書きだす名著の紹介では、米、仏で五年ほど暮らした荷風がパリの「散歩者(フラネール)」の散策モノにあやかった「ひとり荷風にだけできた本」とズバリと断定する。荷風が自分の楽しみで書いた「お遊びの文章」というのだ。荷風が江戸の残照を懐かしんだように、著者もまた荷風の下駄の跡を追って、自分の青春期の思い出の地、神楽坂の赤城神社の境内に入ってみると……。古ぼけた木造の神社は、白いモダン建築に、社務所にはオシャレなレストランが。ユーモアを交えた無駄のない文章で、本とその舞台の土地とそこに流れた時間までをも語ってくれる。
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