元気の出る本がある。それが本書だ。初めて読んだのは中学生の頃、とても面白くてつい、夢中になった。それから半世紀、いまも適当にページを開き、拾い読みするだけでワクワクしてしまう。まさに、時を越えた冒険記録の傑作だ。
第二次大戦が終結して2年後の1947年。ノルウェーの人類学者ヘイエルダールと個性豊かな5人の仲間、1羽のオウムが、インカ帝国の太陽神の名を付けた筏コン・ティキ号で南米ペルーを出発する。南赤道海流に従って西に進み、南太平洋のツアモツ諸島の環礁に座礁、到着するまでの101日間の漂流記だ。
この途方もない冒険は、著者の“ポリネシア人の祖先は筏で太平洋を渡ってきた古代ペルー(インカ)の人々ではないか”という仮説実証のための「漂流実験」だった。筏は釘や針金を使わず、古代のそれを模してバルサ材をロープで結び合わせて造られた。筏は長期間海に浸され波に揺られる。木材は腐りロープは切れてバラバラになる危険がある。その上、船長役の著者も航海の経験はおろか泳ぎすらろくにできないのだ。命がけの挑戦だが、悲壮とか壮烈といった激しさとは無縁のユーモア交じりで綴られる。これがいい。筏に近寄ってくる巨大なジンベイザメの真正面から見た顔が「ぼうっとしていて、馬鹿みたいだった」。鯨と出会い、身近に聞くその呼吸音に、彼らは魚ではなく「われらが遠いいとこ」と同族的親愛感を持った、など……。その一方で、緩急の語りの巧みさで、サメの群れや激しい嵐との戦い、海に落ちた仲間を間一髪で救出する場面などは、息もつかせぬ展開だ。
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