その独自の兵法と個性に魅かれ、甲子園出場を願う著者に、監督は告げた。
「今年は史上最弱のチームです」。そんな超進学校の2013年、夏。
7月7日、神宮球場――。
いよいよ甲子園出場を賭けた夏の戦いが始まる。私は指折り数えてこの日を待っていた。今年こそ甲子園。ほうぼうでそう吹聴してきたということもあり、何やら勝たせる責任さえ感じていたのである。
開成高等学校。言わずと知れた超進学校で毎年、日本一の東大合格者数で話題になるのだが、それより注目すべきは同校の硬式野球部だ。平成17年の東東京大会でベスト16に入り、その翌々年も4回戦まで進み、修徳高校(同年の準優勝校)に惜敗。しばらく低迷するが、昨年も4回戦進出を果たし、その勢いから察するに甲子園はかなり近づいている。開成流に表現するなら、確率は低いが可能性は高まっているのである。
数カ月前、同校の青木秀憲監督は私にこう宣言した。
「今年は史上最弱のチームです」
――ん?
一瞬そうつぶやいてしまったが、気を取り直して私は「よし!」と拳を握った。「弱くても勝てる」というのが開成の信条である。中途半端に弱いと、弱いという自覚を忘れ、小賢しい野球になる。弱ければ弱いほど開成の本領が発揮されるわけで、「最弱」なら間違いがない。常識的には考えにくいことかもしれないが、常識を覆してこそ開成野球なのだ。
それにしても下手すぎやしないか……。
グラウンドでの練習を見て、私は半ば呆然とした。バッティングは山なりの緩い球を次々と空振りしているし、守備もサードがエラーして打球を後逸すると、それをレフトがまた後逸する。追いかけて球を拾い、サードに返球すると再びサードがエラーし、そのこぼれ球をショートが拾って無関係な塁に送球し、それをエラーしたりする。プレイ以前に選手たちは走り方もぎこちなく、とても勝てそうには見えないのだが、その見た目も利用して勝つのが開成野球なのだ。
プラン紹介
「雑誌+年額プラン」にご加入いただくと、全員にNumber特製トートバッグをプレゼント。
※送付はお申し込み翌月の中旬を予定しています
「雑誌+年額プラン」にご加入いただくと、全員にNumber特製トートバッグをプレゼント。
※送付はお申し込み翌月の中旬を予定しています
この連載の記事を読む
「その理由はアメリカでは通用しないよ」吉井理人が佐々木朗希に“小言”を言った理由とマリーンズ未来のための撤退戦「…それが一番楽しいんです」《退任監督インタビュー》
「強くて動ける体を作りたい」宗山塁22歳が語る“ショート”での後悔と、1年ずっと見続けた村林一輝の“凄み”「本当は思うところがあったかも。でも…」【楽天イーグルス】
【動画】「頭ごなしに押し付けるのか」明治大学・大志田秀次監督が語る“弛んだ規律”と伝統校再建策、そして箱根駅伝“幻のオーダー”「大湊や綾と…」《名将インタビュー》
宇野昌磨《Number傑作記事選2015-2025》
「野球が本来あるべき姿に戻る兆し」ドジャース山本由伸の偉業が“野球界と野球史”に残したもの《カーショウ発言から読み解くワールドシリーズ》
《引退インタビュー》「ピッチャーだったらなって」中田翔が何度も考えた野球人生の『if』と今後のビジョン「いろいろ炎上しましたけど…」
「1巡目との差を埋めなきゃと」ルーキーで12本塁打…渡部聖弥が不調でも“全否定”に走らなかった理由「野球って難しく考えると…」【西武ライオンズ】
【マリーンズ】「つきっきりで練習したことも」西川史礁が語るサブロー“監督”からの指摘と新人王争いへの方針転換「宗山、渡部を意識しないと言ったら…」《躍動ルーキーの素顔》
「いいと思う人を取るんじゃなく…」吉田正尚&山本由伸を見出しオリックスを3連覇に導いた“イノベーター編成部長”の人材発掘法とは「編成はどちらかといえば魚屋で」
「結果に意識を向けない」福岡ソフトバンクホークスの苦境を打開した“言葉の力”を探って「今日、いいのを見つけました!」《日本シリーズ制覇の舞台裏》
「その理由はアメリカでは通用しないよ」吉井理人が佐々木朗希に“小言”を言った理由とマリーンズ未来のための撤退戦「…それが一番楽しいんです」《退任監督インタビュー》
「強くて動ける体を作りたい」宗山塁22歳が語る“ショート”での後悔と、1年ずっと見続けた村林一輝の“凄み”「本当は思うところがあったかも。でも…」【楽天イーグルス】
【マリーンズ】「つきっきりで練習したことも」西川史礁が語るサブロー“監督”からの指摘と新人王争いへの方針転換「宗山、渡部を意識しないと言ったら…」《躍動ルーキーの素顔》
「すべてにおいて劣っていたな、と」石井大智の57試合ぶり失点と涙…「あんなの、あり得ない」仲間も度肝を抜かれた柳田悠岐の同点弾《日本シリーズ第5戦:2人のKEYMAN》
「野球が本来あるべき姿に戻る兆し」ドジャース山本由伸の偉業が“野球界と野球史”に残したもの《カーショウ発言から読み解くワールドシリーズ》
【下柳剛の視点】「セ・リーグのバッターならあの球は打てない」柳田悠岐vs.石井大智に透けた“リーグ格差”とホークスの底力「…諦めがつく一敗だろう」《日本シリーズ第5戦の詳細解説》
《引退インタビュー》「ピッチャーだったらなって」中田翔が何度も考えた野球人生の『if』と今後のビジョン「いろいろ炎上しましたけど…」
「野球って不思議な競技で」高津臣吾が語るスワローズ愛、短期決戦の怖さ、“メジャー挑戦”村上宗隆への期待「日本の4番ですから」《監督退任インタビュー》
「いいと思う人を取るんじゃなく…」吉田正尚&山本由伸を見出しオリックスを3連覇に導いた“イノベーター編成部長”の人材発掘法とは「編成はどちらかといえば魚屋で」
「結果に意識を向けない」福岡ソフトバンクホークスの苦境を打開した“言葉の力”を探って「今日、いいのを見つけました!」《日本シリーズ制覇の舞台裏》
【下柳剛の視点】「セ・リーグのバッターならあの球は打てない」柳田悠岐vs.石井大智に透けた“リーグ格差”とホークスの底力「…諦めがつく一敗だろう」《日本シリーズ第5戦の詳細解説》
「すべてにおいて劣っていたな、と」石井大智の57試合ぶり失点と涙…「あんなの、あり得ない」仲間も度肝を抜かれた柳田悠岐の同点弾《日本シリーズ第5戦:2人のKEYMAN》
「その理由はアメリカでは通用しないよ」吉井理人が佐々木朗希に“小言”を言った理由とマリーンズ未来のための撤退戦「…それが一番楽しいんです」《退任監督インタビュー》
【下柳剛の視点】「海野君もほぼ真ん中に構えて」捕逸があっても藤井皓哉はフォークを…裏にある鷹バッテリーの相互信頼《日本シリーズ第4戦の詳細解説》
「ドラマが満載だった。山あり、谷ありの」超人・大谷翔平に“苦しみ”も与えたMLBの奥深さを読み解く「ドジャース連覇は偶然ではない」【ポストシーズン二刀流の軌跡】
「野球が本来あるべき姿に戻る兆し」ドジャース山本由伸の偉業が“野球界と野球史”に残したもの《カーショウ発言から読み解くワールドシリーズ》
「野球って不思議な競技で」高津臣吾が語るスワローズ愛、短期決戦の怖さ、“メジャー挑戦”村上宗隆への期待「日本の4番ですから」《監督退任インタビュー》
【マリーンズ】「つきっきりで練習したことも」西川史礁が語るサブロー“監督”からの指摘と新人王争いへの方針転換「宗山、渡部を意識しないと言ったら…」《躍動ルーキーの素顔》
【動画】「箱根駅伝優勝よりも大切なものがある」玉城良二が語る“なんで俺が?”から始まった監督就任とある風潮への違和感「指導者が選手以上に前に出て…」《徹底解剖・日本体育大学2025①》