#791
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<愛馬オルフェーヴルを語る> 池添謙一 「三冠をもたらした“人馬一体”」

2011/11/16
栄光の瞬間、時に激情すら隠さない男の目に涙はなかった。
手綱を握り続けた“荒馬”とともに多くの難題と重圧を克服し、
達成した史上7頭目三冠の偉業を、若きジョッキーが振り返る。

 10月23日の菊花賞を勝ってオルフェーヴルは史上7頭目の三冠馬になった。三冠は2005年のディープインパクト以来6年ぶりのことである。単勝1.4倍の断然人気に支持されたオルフェーヴルは2周目の3コーナーから徐々に進出し、直線を向くと早めに先頭に立って、危なげなくほかの馬たちを退けた。2着との差は2馬身2分の1、走破タイムはレコードに0秒1だけ及ばない3分2秒8だった。

 強さを誇示するレースを見せたからといって、騎乗者も鼻歌混じりだったなどということはない。三冠である。現役で達成している騎手は武豊ただひとり。当然池添謙一の心境は穏やかではなかった。

「菊花賞の日はレースを待っている間、ずっと音楽を聞いてリラックスしようと努めていたんですが、ソワソワしているのは自分でも分かりました。周りもぼくに気を使ってくれて、あまり話しかけてこない。それで余計落ち着きませんでした」

 騎手の控え室。近くに武豊がいた。いつもどおりの「ユタカさん」である。

「ユタカさんはディープインパクトのときも普通でした。それを思い出して、この人は自分と同じ立場に置かれて、どうやってそれを克服したんだろうって、あらためてすごいと思いました」

神戸新聞杯でスローペースを克服した経験が活きたレース前半。

 オルフェーヴルで馬場に出ると、大歓声がわきあがった。

「それを聞いて、ここで勝たなきゃと気持ちが引き締まりましたね」

 ソワソワした落ち着かない気持ちはいつの間にか消えていた。

 ただ、ゲートが開くとレース前とは別の緊張を強いられた。オルフェーヴルは激しい気性の持ち主で、騎手のコントロールを逸脱してしまうことがあるからだ。

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photograph by Yoshiharu Hatanaka

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