その強さと美しさは盤石で、かつては魅力の一部だった脆さや危うさは顔を出さない。街の人々は、そしてプレーする選手は理想に近づくサッカーに何を思うのか。
国王杯5回戦敗退――。その衝撃が覚めやらぬ1月16日、バルサはリーグ18節を迎えた。快進撃に黒星をつけた因縁の敵セビージャが、ふたたび行く手に立ちはだかる。冷たい冬の雨が降り続けるカンプノウで、6万人が寒さに震えながらピッチに目を凝らしていた。
セビージャは、序盤からバルサ守備陣に圧力をかけた。だが、試合はやがて本来の構図に落ち着く。バルサが敵陣でボールを回し始め、セビージャは自陣に人垣を築いた。
攻撃を志向するバルサは、必然的に密集する敵との戦いになる。押し込むほどゴールは近くなるが、目の前は敵ばかりになり、ゴールへの道筋は細くなる。
奥行きがなければ幅を使い、メッシに密集する敵を託す。
16分、右サイドを駆け上がったアウベスが、ライン際のメッシにボールを預ける。この瞬間、メッシの周辺のピッチが風船のように膨らみ始めた。もちろん錯覚である。仲間がメッシから離れていったのだ。
20m四方で、メッシと4人の敵が対峙した。仲間は遠巻きに見守っている。「さあ、任せたよ」と観戦しているかのように。
メッシが横へ走る。ひとりかわして、縦に動き出したイブラヒモビッチへパスを送るが、ボールは惜しくもラインを割った。
奥行きがなければ幅を使う、それが密集する敵に対するバルサの解決策だった。同時に選手の分布を変えてスペースを創り出し、メッシに4人の敵を託す。メッシなら4人でも切り崩せる。仲間は決定機に備えればいい。
精緻な計算に忍ばせた、メッシの才能というトリック。
ソリアーノ元副会長の著書の表題にあるように、バルサにとって『ゴールは偶然の産物ではない』。彼らの試合運びは、高度な技術と精緻な計算によって成り立っている。例えば手で扱うかのように正確で流れるようなパス回しには、トラップの規則性に秘密がある。パスが来た方の遠くの足でトラップし、軸足で回るようにして逆側へ持ち出すのだ。
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