博多の人・王貞治BACK NUMBER
「もしもし、王です」「どちらにお掛けですか?」“優勝請負人”にホークス王貞治からまさかの電話…そして野村克也が「考え直せ!」と言ったワケ
text by

喜瀬雅則Masanori Kise
photograph byKazuaki Nishiyama
posted2026/08/06 11:04
尾花高夫(左)の家の電話を鳴らしたのは王(右)だった。その真意と、野村克也との関係とは
「監督が辞めるなら、僕も辞めます」
「そんな、お前、ワシに義理立てせんでええぞ」
「いや、それでは私の気持ちが許せません」
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「お前も、損なヤツやの」
当時41歳の尾花は、野村に殉ずる形でヤクルトを退団した。
「もしもし、王です」「どちらにお掛けでしょうか?」
「それから、10日くらいした頃かな」
自宅の電話が鳴った。当時はまだ携帯電話がそれほど普及している時代ではない。
「あまり普段は電話に出ないんやけど、女房も家にいなかったのかな。たまたま、俺が出たんよ」
聞き覚えのない声だった。
「もしもし、王です」
しかも、知り合いにはいない名前だった。だから「間違い電話やと思ったんよ」。訝しい思いを拭えなかった尾花は、ついぞんざいに返答してしまった。
「すみません。どちらにお掛けでしょうか?」
ところが、返答を聞いた瞬間、座って受け答えをしていた尾花は、思わず立ち上がった。
「あ、申し訳ない。福岡ダイエーホークスで監督をしております、王貞治です」
まさか王さんから電話があるなんて
それまで同じチームでユニホームを着たことはない。試合での対戦はあっても、個人的な付き合いなど全くなかったという。なのに、あの王が、自ら電話をかけてきて「僕を手伝ってくれないか?」と、尾花に投手コーチへの就任を直々に打診してきたのだ。
「びっくりや。まさか王さんから電話があるなんて、そんなこと、1%も思っていなかったからね」
王はなぜ、それまで交流のなかった、しかも巨人のライバル球団にいた17歳年下の投手に、5年契約の5年目という勝負のかかる年に、投手陣を任せようと思ったのだろうか。

