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「なんで俺だけ」大橋ジムと突然の契約終了…世界ランカー平岡アンディ29歳の本音「気持ちがピタッと切れた」世界戦延期、度重なるトラブル
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栗田シメイShimei Kurita
photograph byShimei Kurita
posted2026/06/18 11:04
今年3月、10年間所属した大橋ジムを離れた平岡アンディ(2026年4月撮影)
戦前の評価は圧倒的にラッセル有利。現地はもちろん、日本での下馬評も王者を推す声が大半だった。中量級で日本人が世界王者を狙う壁はあまりにも厚い。そんなボクシング界の定説もあり、かく言う私もラッセルクラスの相手では厳しいだろう、という見方をしていた一人だった。
今度の相手は今まで戦ってきたボクサーの中で一番強い。それが平岡の認識でもあった。だが実際に、ラウンドが始まってから拳を合わせると、王者の力量をこう読み取った。
「予想よりラッセルが出てこなかった。過去の試合でもあれだけ出てこなかったことはない。想定よりもこちらを警戒しているんだな、と感じていました。あそこまでアウトボクシングをしてくる試合は見たことがなかったので」
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満身創痍の体とは別に、頭の中はクリアだった。前半は体力を温存し、ラッセルの動きに合わせて後半勝負――平岡陣営はそんな戦略を描いたというが、平岡を警戒する王者の機微を感じ取り、前に出た。3Rでは平岡からラッシュを仕掛けて、5Rでも手応えがあるストレートが綺麗に入る。7R、9Rでは、積極的なインファイトを展開し、的確な左右のボディを浴びせ、ラッセルをたじろがせた。
「ディス・マン・イズ・デンジャラス・ファイター」
「ヒー・イズ・ビッグチャレンジャー」
現地の実況では、興奮気味の解説者から平岡に向けてそんな言葉が飛ぶ。試合前はアンダードッグ的な扱いだった日本から来たボクサーが王者ラッセルを追い詰める姿は、ラスベガスの観客にも届いていた。しかし、8Rを過ぎた辺りから平岡の動きは目に見えて鈍っていった。
「今何ラウンドか分かるか? 相手だって疲れている」
9Rのインターバルの際、トレーナーである父の問いかけには、すでに答える余力は残っていなかった。頭は冷静で相手の挙動もよく見えている。しかし、体が脳からの指令に反応しない。
「8Rに入ってからくらいか、自分の体だと思えないくらい疲弊していました。足から上まで、こう体が一個につながってないような、感覚です。試合中つまずきそうになったことも何回もあったし、とにかく足が意識についてこない。それくらい疲れていました」
もし、昨年11月に実現していたら…
最終ラウンドでラッシュをかけ意地を見せたが、判定は0対3で敗れた。
なお、ジャッジは5点差が2人、7点差が1人と開いたが、アウェイの地ということを踏まえてもそこまで大差が開く内容ではないという意見も根強かった。ラッセルの勝利インタビュー時にはブーイングも聞こえ、平岡が退場する際は、ラスベガスのファンから温かい拍手が送られたことも、聖地での評価を表していたのだろう。翌日のスポーツ紙や一般紙には、日本勢34年ぶりの同級の世界王者が叶わなかったことに添えて「善戦」という言葉が並んだ。
「ラッセルという強い王者といい試合が出来て、海外で評価してもらえた。でも、やっぱり悔いは残るんですよ。言い訳はしたくないけど、昨年11月のコンディションでラッセルとやれていたら……とはどうしても考えてしまう。人生かけてこの舞台に挑んできたわけですから、正直、悔しいですよ」
そこから1カ月後、平岡は大橋ジムを離れて無所属になった。ジム間の移籍のハードルがいまだに高いボクシング界において、世界戦クラスのボクサーとしては異例の出来事と言える。ただし――それは「世界タイトル」というたった1つの目標に向けての可能性を広げるためでもあった。〈つづき→後編〉


