甲子園の風BACK NUMBER
大社と早稲田実業“じつは甲子園から続いていた”意外な関係「石飛です」「何しに来るんだよ」神バント、内野5人シフト…伝説的試合から2年、再戦の結果は?
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井上幸太Kota Inoue
photograph byKota Inoue
posted2026/05/24 11:03
大社・石飛文太監督と早稲田実業・和泉実監督。5月6日撮影
「僕からしたら、和泉さんは『高校野球のすべてを手に入れている方』です。甲子園で優勝しているし、教え子をドラフト1位でプロに送り出してもいる。そんな人が、うちみたいな島根のチームに対して、あそこまでのリスクを冒さなくてもいいのに、と思っていたんですよね」
「なぜあの奇策を使ったのか?」
奇策は成功すれば称えられるが、失敗に終わればたちまち批判を浴びる。和泉が1点を防ぐために敷いたシフトも、ヒットゾーンの広がった外野に運ばれでもしたら、たちまち愚策と呼ばれる可能性もあった。
島根の公立校に対して、東京の名門私立校がそんな博打を打つ必要があるのか。疑問だった。
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和泉はそれまでと変わらぬ調子で「なに言ってんだよ」と一蹴し、続けた。
「勝ちたいからに決まってるだろ」
和泉から発せられたのは、将としての根源的な欲求だった。石飛が感嘆しながら振り返る。
「すごいな、と思いましたね。昔は僕も評価を気にして、名将や重鎮と呼ばれる方々とお話するときに、『こんな質問をしたら、浅い人間と思われるかな』とか、『もっと勉強してこいって思われたらどうしよう』と思っていました。けど、もういいかなと思って質問させてもらって、和泉さんの答えが聞けてよかったです。まあ、僕の質問はしょぼすぎましたけど(笑)」
「和泉さん、実は島根って結構近いんです」
いつしか、和泉の指導者人生に話題が及ぶ。石飛が「南陽工業におられたんですよね」と投げかけると、和泉が「そうなんだよ。今でも練習試合に行くよ」と返した。和泉の指導者としてのはじまりは、山口の南陽工の監督だった。
そこで、石飛がひらめく。2人の記憶をつなぎ合わせると、会話はこんな調子だったようだ。
「いつごろ山口遠征に行かれるんですか?」
「ゴールデンウィークだよ。毎年ではないけど」
「和泉さん、実は山口と島根って結構近いんですよ」
「騙されねえぞ。3時間はかかるだろ」
和泉が苦笑しながら振り返る。
〈つづく〉

