猛牛のささやきBACK NUMBER
「突然腕が振れなくなって」20歳のオリックス右腕を襲った“イップス”の悪夢「漁師か動物園の飼育員に…」一度は諦めかけた野球人生の大逆転秘話
text by

米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph bySANKEI SHIMBUN
posted2026/05/03 11:00
ウエスタンリーグで先発する佐野皓大投手(2015年)
その年8月に舞洲の球団施設で取材した際、佐野は「難しいですね、野球は……」とつぶやいた。そのあと、なかば諦めたかのように「野球終わったら漁師か動物園の飼育員になるんで、取材に来てくださいよ」と言われ、答えに窮した覚えがある。佐野にその話をすると、苦笑しながら言った。
「その頃はもうずっと腐っていたので。でもそんな時でも、(山本)由伸とか、(山崎)颯一郎とか榊原(翼)とか、あの代はよく一緒にいてくれましたね。それはデカかったです。いまだに言ってきますけどね。『あの時腐ってた』って(笑)。あとは同級生の齋藤綱記とも仲が良かったし、(山崎)福也さんも面倒を見てくれていました」
「野手転向」決断のとき
佐野の野球はそこで終わらなかった。球団から野手転向の打診を受け、「やりたいです」と即答した。
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50m5秒8の俊足を活かさない手はない。それに、もともと打撃が好きで、たまに打撃練習をしている姿を球団スタッフが見ており、そのセンスに目をつけていた。
その3年目のシーズン後、育成契約となり、野手としての挑戦が始まった。
「『どうせ無理やろう』という諦め気味の気持ちもありました。でもバッティングは好きだったので、新しい、また違うスポーツだと思ってやり始めました」
佐野は、熱量が直接的に伝わるような言葉を発することがあまりなく、どちらかというと脱力系だ。だが、普段の言葉とは裏腹な野球への熱さを秘めていて、時折それが表に湧き出ることがある。この3年目、野手転向を決めて秋季練習に臨んだ佐野の姿は壮絶だった。
ほんの2カ月ほど前、「漁師か動物園の飼育員になります」と半分諦めたように話していた選手とは思えない、必死で野球に食らいつく姿があった。〈つづく〉

