猛牛のささやきBACK NUMBER
「突然腕が振れなくなって」20歳のオリックス右腕を襲った“イップス”の悪夢「漁師か動物園の飼育員に…」一度は諦めかけた野球人生の大逆転秘話
text by

米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph bySANKEI SHIMBUN
posted2026/05/03 11:00
ウエスタンリーグで先発する佐野皓大投手(2015年)
大分高校からドラフト3位で2015年に入団した佐野は、投手としてプロ生活をスタートさせた。高校時代から球速が150kmを超え、チームを甲子園に導いた期待の逸材。プロ2年目は二軍で主にリリーフとして20試合に登板し、防御率3.03という成績を残していた。だが3年目の5月21日、ウエスタン・リーグ広島戦が行われたやまみ三原市民球場で、悪夢に見舞われた。
その試合は5回を終えて7-11と、荒れた展開になっていた。次々に投手がつぎ込まれ、佐野もブルペンで準備を始めた。
ブルペンと言っても、地方球場のため囲われたスペースはなく、ファールゾーンがブルペンになっていた。そこで肩を作っていた佐野のボールが高く浮き、ブルペン捕手の後ろに立ててあったネットを越えてしまった。ボールは転々と転がり、審判が試合を止めた。
「そこからもう投げられなくなりました」
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まずい、試合を止めてしまった。もう絶対にそらしてはいけない。
そう意識しすぎたのかもしれない。
「そこからもう、腕振れなくなって……。おかしくなりましたね。突然でしたし、初めての感覚でした。キャッチボールより遅い球しか投げられなくなった。なんというか、投げようとしたら、途中で止められるというか、抑えられる、固まる、そんな感覚でした。それまでは“イップス”という言葉すら知らなかったんですけど、そこからもう投げられなくなりました。
そのあと確かマウンドに上がったんですけど、ストライクが入らなかった。カーブしか(ストライクが)入らなくて、ホームランを打たれた記憶はあるんですけど、そこからどうやって抑えたのか、それとも代わったのか、覚えていません」
「漁師か動物園の飼育員に…」
当時の記録を見ると、佐野は広島の髙橋大樹に本塁打を打たれて3点を失ったあと、比嘉幹貴(現・投手コーチ)に交代している。
大阪に帰っても球速は戻らず、試合から遠ざかっていった。

