フィギュアスケートPRESSBACK NUMBER

「2年間負けなし」王者マリニンの誤算“じつはパニック状態だった”本番直前…記者が現地で見た“不安の正体”「マリニンは1人でインタビューエリアへ…」 

text by

野口美惠

野口美惠Yoshie Noguchi

PROFILE

photograph byAsami Enomoto / JMPA

posted2026/02/15 17:04

「2年間負けなし」王者マリニンの誤算“じつはパニック状態だった”本番直前…記者が現地で見た“不安の正体”「マリニンは1人でインタビューエリアへ…」<Number Web> photograph by Asami Enomoto / JMPA

フィギュアスケート男子シングルでまさかの8位に終わったマリニン

「4回転アクセルを入れて、すべてのジャンプを完璧にこなすというのは必ず出来ることではありません。このミスで戸惑うことなく、予想の範囲内だと思いました」

「あの瞬間に何が起こったのか」

 3本目の4回転ルッツは成功。しかし4回転ループが2回転になると、頭が真っ白になった。

「もう、そこからは何があったのか分かりません。あの瞬間に何が起こったのか。ただ予想外のことだったということだけです」

ADVERTISEMENT

 演技後半の4回転ルッツを、回転が足りずに転倒。さらに最後の4回転サルコウは2回転になり、転倒した。

「ずっと自分に言い聞かせていました。『この日のためにトレーニングしてきたんだ。何度も練習してきたんだ。他のミスをした試合と同じことが起きるなんて考えてはいけない』と。でも、何かが違っていました。気づいたら終わっていました」

 演技を終え、悲しそうに顔を歪める。力なくリンクサイドに戻り呆然とした表情で、得点を待つと、フリーは156.33点、総合264.49点での8位。無言で立ち上がると、オリンピックチャンピオンとなったシャイドロフのところへ行き、そっと抱きしめた。

「彼を祝福しました。彼は今季調子が良くないと聞いていたので、彼の演技をロッカールームで見て本当に誇りに思っていました。僕達は、フィギュアスケートという大きなファミリーとして支え合っているんです。僕達はライバル意識が強くて良い関係性がないと思われがちですが、実際は常にお互いに喜びあい、励まし合い、様々な感情が渦巻いています。この情熱があるから、僕はこのスポーツが大好きなんです」

本番直前に崩壊していた

 歓喜の渦に包まれ、表彰式へと向かうシャイドロフ、鍵山、佐藤の3人に背を向け、マリニンは1人、インタビューのエリアへと向かった。

「もう終わってしまいました。やり直したい気持ちはありますが、後戻りして変えることはできません。あの時に沸き起こったものは何だったのか、今はまだ分かりません」

 1週間で4回演技をするハードスケジュール。団体戦でミスが出たこと。ブレードを研磨し、氷に慣らすために再び練習したこと。追い上げる日本勢の勢い。当日朝に遠方のリンクで1人で練習した戦略。そして金メダルが当然という期待――。

 1つ、2つの困難であれば、耐え抜くことが出来ただろう。小さなひずみが重なり、彼の心は少しずつひび割れ、本番直前に崩壊した。

「ただ気持ちを切り替えて、次に何をすべきかを考え、そこから進んでいくだけです」

 涙は見せず、自分に言い聞かせるように静かに頷いた。

#1から読む
「金メダルの最有力候補ですね」マリニンは米国記者の質問に“首を振った”…現地記者が目撃した“マリニンの異変”、戦略を変更していた「ミラノから車で…」

関連記事

BACK 1 2
#イリア・マリニン
#鍵山優真
#佐藤駿
#ミハイル・シャイドロフ
#オリンピック・パラリンピック
#ミラノ・コルティナ五輪

フィギュアスケートの前後の記事

ページトップ