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ボクシングPRESSBACK NUMBER
「負けは明らかでも両腕を突き上げ」ピカソの井上尚弥対策は「見事だった」元世界王者・飯田覚士が“びっくりした”7Rの攻防「相当自信があるんだなと…」
text by

二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byNaoki Fukuda
posted2025/12/31 17:01
井上尚弥とアラン・ピカソの一戦は予想に反して12回判定までもつれこんだ
「尚弥チャンピオンは、どうやって崩そうか、とパンチを打ちながら相手の反応を見ていましたよね。ピカソ選手のパンチ力がいかほどか敢えて受けて、測っていた感じもありました。これだけガードを固められるとやりづらいから2ラウンドになると逆に誘っていました。
ピカソ選手は相手の打ち終わりに打ち返すことは意識していて、特に左フックは今回、準備してきたなって分かりました。しかし誘われていると感じると、一転して乗ってこない。強めにアタック掛けられても、無理には打ち返さない。もしその展開になれば、尚弥選手のカウンターが決まって早く終わったのかもしれません」
ピカソの「正面作戦」は確かに効果を発していた。低い姿勢でガードを固め、頭の位置を変えながら的を絞らせない。しかし井上のパンチの破壊力を考えれば、ガードの上から浴び続けていくとダメージが蓄積されていくはず。と思いきや、ラウンドが進んでもその疲弊は不思議と感じられない。井上のパンチ力が弱いわけがなく、ここにこそピカソのディフェンス技術があったと飯田は言う。
井上の強打を受けても大ダメージにならず
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「ただガードを固めていただけなら当然ダメージとなって残ります。でもピカソ選手はそうじゃなかった。前にガードを置きつつ、パンチが来たらヒュッとスウェー(上体を後ろに引く)してから背中を丸めるようにして腰も姿勢も低く、後ろ重心にする。相手の一発一発にちゃんと体を反応させて、体とブロックを動かしながらパンチの威力を受け殺していました。我慢できずに大きくバックステップを踏むと尚弥チャンピオンに勢いよく出てこられてしまうので、ちょっとずつ下がりながら(威力を)受け流していくんです。体全体を緩衝材にしていくから、あの尚弥選手の強打をガードで受けても大ダメージにならなかった。この技術の高さがあるから、無敗のキャリアを築けているんだなって納得できましたね。びっくりしたのは7ラウンドです。尚弥選手の右ジャブをガードで防ぐんじゃなく、頭を動かしながら空振りさせた場面がありました。ディフェンスには相当自信があるんだなと思いましたね。
そのうえで打ち終わりには必ず打ち返すこともやっていました。ガードの隙間から尚弥選手のパンチを全部見ていて、チャンスのタイミングを逃がさないようにと意識していましたね。ディフェンシブな戦いですけど、強気で返していこうとする姿勢は終始変わりませんでした」

