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「井上尚弥は退屈そうだった」英国人記者が見た“敗者ピカソの誤算”「あまりに消極的で…」圧倒的な実力差、なぜKO決着にならなかったのか
 

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杉浦大介

杉浦大介Daisuke Sugiura

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photograph byHiroaki Finito Yamaguchi

posted2025/12/30 17:01

「井上尚弥は退屈そうだった」英国人記者が見た“敗者ピカソの誤算”「あまりに消極的で…」圧倒的な実力差、なぜKO決着にならなかったのか<Number Web> photograph by Hiroaki Finito Yamaguchi

アラン・ピカソに判定勝ちを収めた井上尚弥。試合後は「疲れました」と本音も漏らした

 ジャッジ3者の採点を見れば“圧勝”と呼べる勝利だったが、試合後のイノウエは自身が不出来だったと振り返り、『疲れました』と話していた。このピカソ戦が今年で4戦目だったことの影響があったのかもしれない。

 私たちは忘れがちだが、イノウエは1試合ごとに8〜10週間のキャンプに入る。つまり、年間で32〜40週間ほどトレーニングした計算になる。彼は32歳で、プロキャリア13年だ。非常に勤勉なファイターで、本当にハードに練習する。

 特に今回はリヤドでの試合だった。DAZNの仕事、マッチルーム・スポーツとの関わりもあったし、日本メディアの対応もあった。名古屋でのムロジョン・アフマダリエフ戦よりも要求されるものが多かったと思う。イノウエは今や世界的スターだ。グランド・アライバル、公開練習などイベントが次から次へと続いた。私たちは彼を“モンスター”と呼ぶが、実際には人間だ。この試合に関しては、それが影響したのかもしれない。

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 試合後の会見で私がその点について質問した際、イノウエ自身はそれを必ずしも認めず、『あの時そう言ったのは、単純に試合直後で疲れていたからだ』という感じだった。だが、32歳で年間4試合はやはり少し多く、3試合が理想的であったのかもしれない。

「試合が長引いている」井上尚弥に聞きたかったこと

 すべてを振り返り、ピカソ戦でのイノウエのパフォーマンスを採点すると、前半について言えば「A+」だ。本当に素晴らしかったし、リングサイドで見られたのは幸運だった。ただ後半は、彼自身の基準で言えば「B+」か、場合によっては「C」だ。明らかにアクセルを緩めていた。全体としては「B+」あるいは「B−」。イノウエはKO勝ちでファンを喜ばせることを好む選手であり、その点では失望していたのではないか。試合後は幸せそうに見えなかった。

 会見で私がイノウエにしたもう一つの質問は、『スーパーバンタム級では試合が長引いているが、より大きな相手を倒すのが現実的に簡単ではなくなっているのではないか』というものだった。アフマダリエフ戦、ピカソ戦と、彼のプロキャリアで初めて2試合連続で12ラウンドを戦ったことになる。私の問いにイノウエは『そうは感じていない』と短く答え、もしかしたら弱みを見せ始めていることを私が示唆したように受け取ったのかもしれない。ただ、そういう意図ではなかった。

 一般論として、階級を上げればパワーは落ち着く。マニー・パッキャオがウェルター級に上げた時と同じだ。スーパーバンタム級に上げてから、試合は平均8〜9ラウンドになっている印象だ。マーロン・タパレス戦は10ラウンドKOだったし、過去2戦はフルラウンド。それでも圧倒的な形で勝ち続けていることに変わりはなく、イノウエはそういう段階に入ってきているということなのだろう。

◇  ◇  ◇

 後編では、スーパーバンタム級での初戦を終えた中谷潤人への率直な評価、そして井上尚弥とのビッグファイトへの道筋を考察する。〈つづき→後編

#2に続く
英国人記者も驚いた…中谷潤人なぜ大苦戦?「パンチが効かないなんて…」井上尚弥戦へ改善すべき“悪癖”「ナカタニは時々、リスクを取りすぎる」

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