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ボクシングPRESSBACK NUMBER
「井上尚弥は退屈そうだった」英国人記者が見た“敗者ピカソの誤算”「あまりに消極的で…」圧倒的な実力差、なぜKO決着にならなかったのか
text by

杉浦大介Daisuke Sugiura
photograph byHiroaki Finito Yamaguchi
posted2025/12/30 17:01
アラン・ピカソに判定勝ちを収めた井上尚弥。試合後は「疲れました」と本音も漏らした
私はすべてのラウンドを王者のポイントにつけた。正直、ピカソに1ラウンド与えるのにも苦労するくらいで、あるとすれば最終ラウンドくらいか。この回だけはピカソの左フックなどイノウエは珍しく被弾していたが、メキシカンにとってはレベルがいくつも上の選手と対戦した試合だったと思う。もう少し抵抗できると思っていたが、才能の差は明らかだった。
サウジアラビアで挙行された今戦中、アリーナで一番声が大きかったのはメキシコのファンだった。ピカソについてきた連中が大きな声を出し、非常に良い雰囲気を作り出していた。
これは失礼だとは受け取らないで欲しいのだが、日本のファンは本当に礼儀正しく、メキシコのファンほどの音量で声援を送ったりはしない。メキシコのファンは全員がアンダードッグを応援していた。偉大な王者の華やかな姿を見に来たわけではなく、素直にメキシコ人選手が勝つことを願っていたのだ。
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ただ、ピカソに大きな期待をかけていた彼らが湧き上がるシーンはほとんど訪れなかった。“モンスター”の技量ゆえに、メキシカンたちに祝杯を挙げるチャンスはなかった
「ピカソ陣営はボディを狙っていた」
試合前、私はピカソと陣営にインタビューする機会があり、彼らの狙いはインサイドに入ってボディを攻めることだと知らされていた。とはいえ、イノウエのように爆発力のある選手相手では、頭の中ではやりたいことがあっても、実際にはやり遂げるのは簡単ではない。
イノウエの動きがあまりに良く、ピカソは距離を詰められなかった。序盤の6ラウンドではピカソが少しでも欲を出したり、良いパンチを当てたりすると、イノウエは即座にギアを上げた。打つたびに即座に罰を受けるということ。そうなると、相手はパンチを出すこと自体をためらうようになる。結果として、ピカソのゲームプランは完全に崩れた。
流れを変えるために、できることは何もなかった。才能の差だけでなく、フットスピード、ハンドスピード、リングIQ、すべてがイノウエ有利だった。だとすればアウトボクシングは不可能だし、イノウエにダメージを与えるようなパワーパンチも持たなかった。12ラウンド持ちこたえる耐久力はあったが、イノウエを脅かす武器は一つもなかった
ピカソのタフネスは称賛されていいと思うし、気持ちが折れることはなかったが、シンプルにレベルが違った。彼はまだ25歳と若く、身体が大きいから将来的にはフェザー級に上げるだろう。少なくとも現時点でのピカソはエリートレベル、パウンド・フォー・パウンドレベルではなく、そのレベルにいるイノウエとの差を思い知らされる結果になった。


