ボクシングPRESSBACK NUMBER

「リングがぶっ壊れたのかと…」“中量級で世界に迫ったボクサー”再起戦でまさかの悲劇「バチンという破裂音が」内藤律樹34歳を襲った“残酷な現実”

posted2025/12/26 17:04

 
「リングがぶっ壊れたのかと…」“中量級で世界に迫ったボクサー”再起戦でまさかの悲劇「バチンという破裂音が」内藤律樹34歳を襲った“残酷な現実”<Number Web> photograph by Kokou Sekine

生き残りをかけた試合の開始直前、控室で集中力を高める内藤律樹

text by

関根虎洸

関根虎洸Kokou Sekine

PROFILE

photograph by

Kokou Sekine

かつてボクシング最激戦区の中量級で世界の頂点に近づいた内藤律樹(34歳)。父・カシアス内藤ゆずりの天才的なセンスを持つ二世ボクサーは、日本での挫折を経て、オーストラリアで夢の続きを追いかけていた。トレーナーとして、そしてカメラマンとして少年時代から「リッキー」を知る関根虎洸氏が、オーストラリアでの“運命の一戦”に密着した。(全2回の2回目/前編へ)

試合当日、神父が口にした“感情を揺さぶる言葉”

 リッキーこと内藤律樹のオーストラリア第4戦の当日、早朝に目を覚ました私はホテルの周辺を散歩することにした。時計塔のあるブリスベン中央駅に直結したホテルの周辺は、1900年前後に建てられた教会が点在する歴史地区。数カ所の古い教会を巡り、最後に石造りアーチ天井が特徴のセントジョンズ大聖堂へ立ち寄った。

 壮麗な内観に圧倒された私は、近くにいた高齢の神父に教会の歴史を訊ねる。神父は丁寧に教会の歴史を説明した後に「God Bless(神のご加護を)」と口にするのだった。神父がその言葉を付け加えるのは当たり前としても、それはいつもとは違う緊張感の只中にあった私の感情を揺さぶる言葉だった。

 昼食はリッキーのリクエストで軽めにサンドイッチ。プロ30戦目となるリッキーは落ち着いている。16時にホテルを出ると、トレーナーのコーベンが運転するピックアップトラックで試合会場のパット・ラフター・アリーナへ向かった。 

1ラウンドから勝負にいったリッキー

ADVERTISEMENT

 日本ボクシング界の至宝、井上尚弥が最強の挑戦者ムロジョン・アフマダリエフに快勝した4日後、元日本・東洋太平洋王者の内藤律樹はオーストラリアのリングに立っていた。

 ハグラーがハーンズ戦で穿いていたトランクスと同じ、紺色のベロア生地に水色のラインが入ったトランクスを穿いてリングに上がったリッキーは、ゴングが鳴ると一気に距離を詰めてスピードのあるワンツーを放った。コーナー下からリングを見上げる私の位置から、対戦相手のジェイコブ・ン(Jacob・Ng)の表情が一瞬で引きつったのが見えた。続けて、踏み込んで放った右フックが鈍い音を立ててジェイコブの側頭部に当たり、リッキーがオープニングヒットを奪う。

 作戦通り、リッキーは1ラウンドから勝負をかけにいった。

【次ページ】 「バチン」という破裂音と、突然の異変

1 2 3 4 NEXT
#内藤律樹
#カシアス内藤

ボクシングの前後の記事

ページトップ