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ボクシングPRESSBACK NUMBER
「リングがぶっ壊れたのかと…」“中量級で世界に迫ったボクサー”再起戦でまさかの悲劇「バチンという破裂音が」内藤律樹34歳を襲った“残酷な現実”
text by

関根虎洸Kokou Sekine
photograph byKokou Sekine
posted2025/12/26 17:04
生き残りをかけた試合の開始直前、控室で集中力を高める内藤律樹
試合後、深夜のハンバーガーチェーンで
リッキーの座った車椅子を押してアリーナの駐車場へ行き、ホテルへ戻ったのは23時を過ぎていた。翌日まで部屋を予約していたが、予定を変更してホテルをチェックアウトすると、トレーナーのコーベンが運転する車に乗り込み、リッキーが暮らす120km離れたトゥーンバの町へ戻ることにした。
「……腹へったね」
深夜の静かな国道を走りながら私が呟く。
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そういえば昼にサンドイッチを食べてから、3人ともなにも食べていない。
国道沿いにハンバーガーチェーンの「ハングリージャックス」を見つけた。商標登録の関係でオーストラリアではハングリージャックスと呼ばれる「バーガーキング」のドライブスルーへ立ち寄り、それぞれが好きなハンバーガーセットを注文した。
トゥーンバの街へ向かうピックアップトラックの中で、ハンバーガーとポテトをコーラで流し込みながら、私は思い出したようにリッキーに訊ねた。
「バックステップしてパンチを外した後に、一瞬後ろを振り返るような動きをしたけど、あの時のこと覚えている?」
「覚えています。リングがぶっ壊れたのかと思ったんですよ」
着地した左足に感触がなかったため、リングの床が壊れたのかと思ったらしい。
「そっか……。運がなかったな。とにかく今はまず治療に専念しよう」
私がそう言うと、リッキーは静かに呟いた。
「……こっちで35歳までに結果が出せなければ、やめるつもりでいました。それは来た時から決めていたんです」
一体、アキレス腱断裂は治るまでにどのくらいの期間がかかるのだろう。もう一度ベストコンディションを作るには、1からではなくマイナスからのスタートになる。気の遠くなるようなリハビリと、負債を取り戻すためのトレーニング――34歳のリッキーにとって、それはあまりにも厳しい現実だった。

