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「私たち…駅伝、出られるの?」からの出発…“長距離部員は3人だけ”地方の公立校がなぜ全国高校駅伝の女王に? 18年前「長野東の奇跡」を振り返る
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別府響Hibiki Beppu
photograph byJIJI PRESS
posted2025/12/21 06:01
昨年の全国高校駅伝で2度目の全国制覇を果たした長野東高校。いまでは駅伝女王となった「普通の公立校」の黎明期とは?
これは玉城にとっても予想外の事態だった。
「小田切はもともと全中には出ていましたけど、全国的に見ればそこまで強いランナーというワケではなかったんです。もちろん練習がすごく好きという素養はありましたけど……」
実績はあったとはいえ、高校入学直後の大会である。通常なら全国大会の壁に跳ね返され、それを通じて駅伝に関しても「全国に行くのは大変だ」と思うケースの方が多いだろう。
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「ところが、いきなり最初にポンと行っちゃった。結果的にそれが基準でスタートできちゃったんですよね。3人とも『このくらいやれば全国なんだ』というのが早々に可視化できてしまった」
最初は玉城も「全国駅伝なんて、お前、そんな簡単じゃないぞ。何もないところから夢物語みたいなもんだぞ」と言っていた。ところが個人でいきなり1年生が全国大会に出てしまったのだ。「結果的に『じゃあ駅伝もいけるだろう』みたいになってしまった」と笑う。
加えて8月のインターハイ後には、意識の面でも3人をガラッと変える出来事があった。小田切が言う。
「たぶん玉城先生のツテもあって、夏に長野県内の高地でやっている全国の強豪チームの合同合宿に参加させてもらえたんです」
練習ももちろんきつかった。だが、それ以上に驚いたのが日常生活の面だった。
「挨拶をちゃんとするとか、時間の厳守とか、本当にそういう基本的なことですよね。競技以外の部分も強いチームは徹底しているんだと目の当たりにしたんです。それが結構、カルチャーショックで。特に自分たちは普段の練習で使っているコースから玉城先生や地域の皆さんが作ってくれたわけで、競技以前にそういうことへの感謝の気持ちも大事だよな……と本当に身に染みて気づかされて」
もともと競技への意識は高かった。とはいえ、その時点では同級生3人だけの部活である。練習はともかく、それ以外の私生活の部分はそこまで突き詰めて考えたこともなかった。だがこの合宿を経て、そういった日常への気配りにもすこしずつ意識が向くようになった。
素朴な疑問「私たち…駅伝、出られるの?」
一方で、順調に夏を超えた9月頃のタイミングで、小田切はふと根本的なことに気づく。
11月に開催される高校女子駅伝の長野県大会は5人でタスキをつなぐレースである。どんな大エースがいようが、5人いなければスタートラインにすら立てないのだ。ところが――どう見ても自分たちの部には3人しかいない。
「それまでは練習に試合に必死で正直、全然、真剣に考えていなかったんですよね。でも、さすがにこのくらいの時期になるとちょっと真面目に考え始めちゃって」
そう、小田切の頭に浮かんだのは、こんな当たり前の疑問だった。
「アレ、私たち……駅伝、出られるの?」
<次回へつづく>

