第102回箱根駅伝(2026)BACK NUMBER
「意外と行けるかな…」箱根駅伝5区山上りで区間記録更新を狙う城西大学・斎藤将也の自信を裏づける資質と強化策
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加藤康博Yasuhiro Kato
photograph byNanae Suzuki
posted2025/12/24 10:00
前回、初めて走った箱根駅伝5区に斎藤将也は万全のコンディションで臨めなかった
城西大が強化の中心に据えている「低酸素トレーニング」の貢献も大きい。酸素の薄い高地と同じ環境で抗酸化能力を高めることで、箱根駅伝の最高地点(標高約874m)へ向かう山道でも楽に走れる状況が作れていると櫛部監督は話す。これらは斎藤の前に5区を担った山本唯翔の時代に城西大で確立された強化方法で、この結果が5区選手の適性の見抜き方ともなる。
「低酸素トレーニングでは酸素濃度だけでなくトレッドミルで傾斜をつけるなど、様々な形で負荷をかけられます。そしてこの強化は箱根駅伝5区だけで効果を発揮するものではありません。将也はトラック志向が強く、卒業後は10000mなどで世界大会の日本代表を目指していますが、そのレベルで競うための手段として低酸素環境内でのトレーニングは非常に効果的だと考えています。海抜ゼロメートル付近に住む多くの日本人が受けたことのない刺激は、これからの長距離界にとっても必要不可欠なものだと確信しています」
櫛部監督は箱根駅伝の先まで見据えた育成を行なっている指導者だ。その大きな目標の過程である大学最後の大舞台でも、選手たちが最高の結果を出してくれるはずと期待を寄せている。
最後の「山」に懸ける思い
今季の斎藤の姿には、4年生としての責任も感じられるようになった。印象的なシーンがある。
全日本大学駅伝の最終8区。12位でたすきを受けた斎藤はシード圏内となる8位を目指し、前半からハイペースで突っ込んだ。どんどん順位を上げ、一時は前を走る8位順天堂大学のナンバーカードを視認できるほどに近づいたが、残り2kmで右脚ハムストリングに痙攣を起こしてしまう。結果として9位に終わったが、フィニッシュ後はしばらく立ち上がれないほどに死力を尽くした走りで、普段、闘志を表に出すことが少ない斎藤にしては珍しい姿だった。
「全日本大学駅伝では僕たち4年生に故障者が多く、下級生が主要区間を担うことになり、辛い思いを背負わせてしまったことに責任を感じていました。ペースを考えずに突っ込み、10kmの通過が自分の時計では28分22秒だったと思います。ただ最後の2kmは力を緩めないと脚がもたない状態でした。シードまで手が届けば、下級生たちの悔しい結果に終わった走りも笑い話にできたんですが、それができず申し訳ない気持ちでいっぱいです」
例年ならこの全日本大学駅伝後に10000mで記録を狙うレースに出場するところだが、今季の斎藤はそれを回避し、ひたすら山への準備を進めている。
「大学最後の年は駅伝を頑張りたいと思ったからです。もちろんトラックで日本代表になるという夢はありますが、上りのトレーニングはそこにも生きるはず。箱根駅伝ではチーム事情で他の区間を走る可能性もありますが、チームのためにも、自分のためにも、最後は悔いのない走りをしたいです」
歴史に名を残す野望も抱く。5区ならば区間記録1時間09分11秒を大きく上回る1時間07分55秒まで可能と考えている。
「もちろんすべてがうまくいった時の夢の話ですよ。ただ自分は最初の5kmとフィニッシュ前の5kmにアドバンテージがあると思うんです。その間の10kmをいかに走るか細かく検討していき、限界まで攻めるとそのタイムが見えてくるんです。意外といけるかなと思っています」
それは虚勢でもビッグマウスでもなく、本気でそう思っているからこその言葉だ。周囲の選手を気にすることなく、斎藤はただ自身の限界に挑戦することだけを考える。そして最高の走りで往路優勝と、城西大の過去最高順位である総合3位以上に導くつもりだ。


