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「マリニンが何度も転倒していた」史上初の偉業の3日前に起きていた“ある異変”…なぜ7本の4回転ジャンプを成功できたのか? 本人が語る舞台裏
posted2025/12/12 11:04
GPファイナルのフリーで圧巻の演技を見せたイリア・マリニン
text by

田村明子Akiko Tamura
photograph by
Asami Enomoto
12月6日、名古屋のIGアリーナで開催されていたGPファイナルで、新たな歴史が作られた。アメリカのイリア・マリニンがフリーで4回転を7本成功させるという前人未踏の離れ業をやってのけたのである。
3日前に起きていた“ある異変”
その3日前、男子の公式練習では異変が起きていた。マリニンが何度もサルコウに挑んでは、転倒していたのだ。この過去2、3シーズン、公式練習でもマリニンがジャンプで転倒したのを見た記憶はほとんどない。4アクセルまで跳ぶ彼は、普段はサルコウで転倒するような選手ではない。さすがの「クワッド・ゴッド」も、旅の疲れが出たのか。あるいは、もしかすると……。
練習後ミックスゾーンに現れた彼に、私は言葉を慎重に選んでこう聞いた。「サルコウを何度もチェックしていましたね。そのことについて話してもらえますか?」マリニンはニッコリ笑ってあっさりこう答えた。
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「いやあ、調子が良かったんで5回転を試していたんですよ。でも今日はダメだったけど。GPファイナルは何か新しいことを試すのに、とても良い機会なので」
旅の疲れどころではなかった。昨シーズンのスケートアメリカの会見で、マリニンは「来シーズンは5回転をお見せします」とはっきり宣言したが、オリンピックを無事に終えてからのことだろうと誰もが思っていた。肉眼で見ると、何度回っているのかわからないほど回転の速いマリニンのジャンプだが、あれは彼が初めて国際大会の公式練習で見せた5回転への挑戦だったのだ。

