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「誰か指してくれないかな」筋骨隆々から原因不明の異変…豊島将之の対局直後、55歳で死去・真部一男の壮絶な晩年「しかし幻の名手は1カ月後」
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田丸昇Noboru Tamaru
photograph by日本将棋連盟/Nanae Suzuki
posted2025/12/07 11:02
55歳で死去した真部一男にとって、人生最後の対局相手は豊島将之だった
《真部君は端整な顔立ちで、論理的な思考があった。何よりも明るくて、パーティーでは女性陣の人気を一手に集めていた。結婚式がテレビで取り上げられたのは棋界初だろう。まさしく彼は将棋界のモーツァルトであった。2年前に小林宏君に誘われ、弟子の先崎学と一緒に真部邸に行った。ウィスキーを飲み、久しぶりに囲碁を打った。私が悪手を指すと、真部君に待った料としていくらか置いた。大いに飲んで笑い、その夜が笑い通した最後となった》(米長邦雄永世棋聖)
《真部君との思い出は、囲碁、旅行、お酒などいろいろあり、すべてにおいて品の良い人だった。晩年は体の不調もあって辛かったと思うが、親身になって支える人たちがいた。それも真部君の人柄であろう。今年の6月、弟子の小林君と一緒に真部君のなじみの店に行って雑談を愉しんだ。そして柄にもなく手を握り合い、暮にまた会おうと約束して別れたのに……》(河口俊彦七段)
《作家の山口瞳邸の将棋会で、白皙の美少年に二枚落ちで指してもらった。奨励会の真部三段だった。駒落ち定跡を知らないので自己流で攻めると、逆転勝ちを収めた。すると瞳先生は「巨泉は天才だ!」と叫んだ。緩めてくれる高段者よりも、奨励会員に勝つ方が大変だという。僕はこの日から、将棋にのめり込むことになる。本誌の『将棋論考』は格調があり、欠かさず読んでいる。ただ真部君の戦績は満足できるものではない。自分の将来が見えた絶望感を、酒や交友に求めたとも思える》(タレントの大橋巨泉)
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俳人の菊池都は、句会仲間の真部(俳号は雀喜)の句を紹介した。
《うまい酒とよき友あれば秋深し》
《過ぎ去りし今年の夏も何もなく》
天上にいる真部一男は、尊敬する升田幸三と囲碁を打って楽しんでいることだろう。〈つづきは下の【関連記事】へ〉
