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「泣いてるの?」楽天2位指名ピッチャーが恩師に電話、“悔し涙”も…仙台育英、ドラフト“緊迫の現場”で見た「西武3位指名、須江監督がホッとした瞬間」
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中村計Kei Nakamura
photograph byKei Nakamura
posted2025/12/10 11:05
10月23日、仙台育英高校。ドラフト会議のテレビ中継を見つめる須江航監督。プロ野球志望届を提出していた3年生の高田庵冬(左)と吉川陽大(中央)
5時半ごろに各球団の1位指名が確定し、20分の休憩を挟んでから2巡目指名に入る。そのタイミングで、須江は前のめりになっていた報道陣の方を向き、こうたしなめた。
「まだまだゆっくりしておいた方がいいですよ」
2位、あるいは3位の指名もないとの読みだったようだ。
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昨年の仙台育英は大型右腕の山口廉王ひとりがプロ志望届を提出し、オリックスから3位指名を受けた。その際、須江は紺色のスーツに、紺色のシャツと光沢のある紺のネクタイを合わせていた。つまり、オール紺コーディネイトだ。そこにはもっとも熱心に山口のことを見に来てくれていたオリックスから指名されて欲しいという恩師の願いが込められていた。
この日の須江のネクタイの色はエンジだった。何か意味があるのかと詮索する記者に対し、須江はこう否定した。
「これは3年生たちからプレゼントしてもらったネクタイなんで。楽天とか、そういう意味はありません」
その言葉に嘘はなかったのだろうが、最初の吉報は、その楽天からもたらされた。仙台育英のOBで、早稲田大学のエースだった伊藤樹が楽天から2巡目で指名を受けたのだ。
さらには、やはり仙台育英のOBで中京大に進んでいた秋山俊が西武から3位指名を受けた。その瞬間、須江は思わず「よかった~」と両手で顔を覆った。秋山は大学日本代表にも選ばれた3拍子そろった外野手である。
両選手の指名後、須江はすかさずお祝いのメッセージを2人の携帯電話に送っていた。夕方6時過ぎ、4巡目指名に入っている段階でそれを目にした伊藤から須江の携帯に直接電話がかかってきた。
中継も気になるが須江も電話に出ないわけにはいかなかった。途中、須江の「泣いてるの?」という言葉が聞こえた(※電話の詳細は第4回へ)。
どうやら電話先で伊藤は感情を昂ぶらせていたようだ。とはいえ、いつ高田や吉川の名前が呼ばれても不思議ではない順位に入っていたので、須江は手短に電話を済ませ、こう締めくくった。
「夢をありがとう!」
◆
4巡目ともなるとさすがに他の選手の名前が読み上げられるたびに3人の顔が硬直していくのがわかった。
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