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戦力外通告でショック「ぼそぼそ小声で…まさかの言葉」ソフトバンク現地記者が初めて聞いた“田浦文丸の本音”…ダルビッシュ絶賛、村上宗隆を抑えた男の苦悩 

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田尻耕太郎

田尻耕太郎Kotaro Tajiri

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posted2025/11/18 11:01

戦力外通告でショック「ぼそぼそ小声で…まさかの言葉」ソフトバンク現地記者が初めて聞いた“田浦文丸の本音”…ダルビッシュ絶賛、村上宗隆を抑えた男の苦悩<Number Web> photograph by JIJI PRESS

ダルビッシュが絶賛した“魔球”を持つ前ソフトバンク・田浦文丸

 だがしかし田浦は、45試合に投げて7ホールド、防御率2.38と活躍した6年目の2023年以外で目立ったシーズンはなかった。ソフトバンクの8年間では通算80試合に登板して3勝1敗9ホールド、防御率3.42の成績だった。

 皮肉にも直近2年間は左肩の故障で苦しんだ。今季は一軍登板がなく、二軍でも19試合登板に終わっていた。

トライアウトで見せた“田浦の10球”

 果たして迎えた11月12日、広島・マツダスタジアムでのトライアウト。田浦はそのマウンドに上がるのを決心した理由をこう話した。

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「最後、楽しくマウンドに上がりたいなという思いがありました」

 仲間内では表情を崩すことも多いが、それ以外で感情を表に出すことはあまり得意ではない。グラウンドでも笑顔を見せないタイプだ。しかしこの日の田浦は、たしかに柔和な雰囲気を漂わせていた。

 トライアウトでは打者3人と対戦。今年はカウント0―0からの勝負だ。

 1人目の前広島・山足達也は2球で追い込み、勝負の3球目は伝家の宝刀・チェンジアップを投げ込んだ。強い腕の振りから投じられたボールが、一度浮き上がって外角へ流れていく。山足のタイミングを完全に崩し、ピッチャーとキャッチャーの中間に転がるボテボテのゴロに打ち取った。

 これぞ田浦という勝負だった。

 続く前広島・韮澤雄也には直球をセンター前に運ばれたが、3人目の前ソフトバンク・川原田純平はショートゴロに抑えた。

 田浦が投じたのは10球。そのほとんどが変化球だった。

「自分の持ち味は変化球。いろんな球種を使えたので楽しいマウンドになりました」

魔球が重圧にも…「やっぱり僕は野球が好き」

 相変わらず小声だったが笑みを浮かべる田浦。カーブ、スライダー、ツーシームと様々な球種を器用に操っていた。

 チェンジアップは、意外と少なかった。

「高校の頃までは僕の中で一番得意と思える球種でした。だけど、プロに入ってから落ち幅が大きくなったんです。その理由は今も分からないままですが、自分の中で使いにくいボールになってしまった。だからプロで一番多く投げた変化球はスライダーだったと思います」

 それが現実だった。周囲が思う「田浦=チェンジアップ」は、彼にとっていつしか重圧になっていた。その中で振るわない自分を不甲斐なく思い、いつしか野球が苦しくなっていた。

「でも、考えてみたらやっぱり僕は野球が好きなんです。もちろん声がかかれば続けたい」

 彼のことを8年間も近くで取材してきたが、やっと本音を聞き出せた気がした。

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