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「一発で仕留めないとおふくろが襲われるかも」元ラガーマン猟師が語る“初めてヒグマを撃った日”…「クマっていうのは本当に賢くてね」命がけの報酬 

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風来堂

風来堂Furaido

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photograph byJIJI PRESS

posted2025/11/14 11:00

「一発で仕留めないとおふくろが襲われるかも」元ラガーマン猟師が語る“初めてヒグマを撃った日”…「クマっていうのは本当に賢くてね」命がけの報酬<Number Web> photograph by JIJI PRESS

日本では北海道のみに生息するヒグマ。本州・四国に生息するツキノワグマよりも大型で、発達した筋肉を持つ

 駆除で獲ったクマは処分場で処理する決まりになっているので、自身ではクマ肉を食べたことはない。

 一方、爪や内臓につく脂だけは処分する前に譲ってもらっている。秋口に獲ったクマは、内臓のまわりにたっぷりと網状の「網脂(あみあぶら)」がついていて、これがとくに良質なもの。鍋で煮て、浮いてきて固まった脂分を水で洗って瓶に入れて保存している。ケガや火傷によく効き、保湿クリームにもなる。自身がクマに襲われた傷も、クマの網脂を傷に塗って治したという。

 猟友会に所属し、狩猟指導員として後進の指導にも当たっている山田さん。有害鳥獣駆除の活動では報酬金が出るが、ヒグマは一頭につき2万円(※注)。しかし、必ず二人以上でクマを撃ちにいかなければならないので、実質は一人1万円の報酬金となり、滝上町でもそれが問題となっている。

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 弾一発も安くはない金額がかかり、時間もとられる。何より、命がけの活動であることに対しての報酬が少なすぎるとして、滝上町でも見直し・検討は進められている。

※注:現在、滝上町ではヒグマ一頭につき5万円に上昇

「また出とるわ」「なら、やっつけなきゃいかんな」

 北海道の夏は湿度が低く、暑い日があっても総じて爽やかで過ごしやすい。山田さんがヒグマに襲われた7月。盆地の滝上町もそれなりに気温は上がるが、天候は曇りで暑くはなかった。そして、一年の中でも昼間がもっとも長い時期だった。

 その頃山田さんは、夏季に牧草を刈り取るアルバイトをするくらいで、酪農の仕事はほとんど行っておらず、要請があれば駆除活動を行っていた。

 その日の夕方、牧草を刈る作業がちょうど休みだったので、トラックに乗って見回りに出た。いつも走る道で仲間のトラックに会い、すれ違いざまに「またあそこにクマ出とるわ」「なら、やっつけなきゃいかんな」と会話を交わした。午後5時30分ごろに役場に連絡が入り、30代の猟師Sさんと待ち合わせをして2人で駆除を行うことになった。Sさんのシカ撃ちの腕は山田さんも認める実力だったが、クマ撃ちは経験が浅かった。

続く

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#2に続く
「撃ってくれ!」「弾ないんだわ!」ヒグマに襲われた69歳ベテラン猟師の“誤算”「入れ歯は割れて、口は裂けた」「眼球をえぐられなくて良かった」
この連載の一覧を見る(#1〜3)

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