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プロ全12球団が視察した18歳「夏まで高卒プロ志望」が一転…“異例決断”「超有望ドラフト候補はなぜ志望届出さなかった?」監督が明かすウラ側
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井上幸太Kota Inoue
photograph byKota Inoue
posted2025/11/13 11:00
プロ全球団が視察に訪れていた英数学館・藤本勇太(18歳)
敗戦の悔しさから、チームメートの多くが大粒の涙を流す中、藤本の表情は晴れやかだった。その横顔からも、甲子園を目指す戦いに区切りを付け、次なる目標に向かう意志が強固であると伝わってきたものだ。
プロ入りから一転…なぜ進路を変えた?
だが、プロ志望届の提出者公表が解禁されて間もない9月初旬、地元である広島のメディアを中心に「英数学館・藤本、大学進学へ」と報じられた。当然高卒プロを志望していたと考えていただけに驚いた。
手が届きかけたプロ入りから一転、いつ、どのように方針転換したのか――。その真相を知るべく、英数学館の監督である黒田元を訪ねた。
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黒田を一言で表すならば「夢のある人」だ。甲子園出場経験のない英数学館を率いて今年で8年目。学生コーチを務めた東海大、大学卒業後に2年間コーチを務めた東海大相模で培った技術や戦術を伝えてチーム力を底上げするだけでなく、2022年からは専門のトレーナーを招いてのメンタルトレーニングに注力している。選手たちの「自分たちじゃできないという思い込み」を取り払い、2022年夏の広島大会では、優勝候補本命だった広陵を3回戦で撃破。一躍「英数学館」の名を全国にとどろかせた。
生徒の夢を後押しするだけでなく、黒田自身も夢を飾ることなく語る。目下の夢は「本を出すこと」「講演会に呼ばれるような人間になること」「『情熱大陸』に出ること」だそうだ。
「懸念は2つあった」監督明かす“ウラ側”
夢追い人の黒田だからこそ、当初、高卒プロを目指す教え子の志を支持した。しかし、懸念もあった。
その一つが、英数学館が野球界における“新興チーム”であることだった。
「英数学館からNPBに進んだ選手は、過去にもいません。だから、プロの世界では『英数学館ってどこ?』ってなりますよね。球界に頼れる先輩がいない。高校を出てすぐだから人脈も少ないし、広げ方もわからない。高卒でプロに進んで『大学に進んでおけばよかった』と話している選手の話を、人づてに聞いたことがあります。プロに入って何が一番しんどかったかというと、『誰を頼ったらいいのかわからない』ことだと。年単位でコーチが変わる世界で、自分の支えになってくれる人が見えづらいという面もある。それなら、大学で実力を伸ばして、同級生を中心に人脈を広げてからプロに進んでも遅くはないのかなと感じていました」
プレーする選手が人ならば、関わる周囲もまた人である。プロ野球界といえど、そこには一般社会と同じように人間関係が存在するし、“学閥”に近いものも存在する。そこで藤本が選んだ進路とは――。
〈つづく〉

