「賞を狙うと公言するのも野暮」な世界で…ある異色の落語家が“落語界のM-1”を「狙って」獲りにいった意外なワケ「漫才師の熱量と明らかに違うと…」 

　理由のひとつはちょうどこの頃、吉笑が真打昇進を狙っているタイミングだったことだ。一方で、そんな状況にもかかわらず、自分の中では思うように結果が出ていないもどかしさがあったという。

「もうちょっと、なんていうのかな……ガツンと行かなくちゃな、みたいな。そういう想いが強くなっていて」

「ガツンと行く」ために、このNHK新人落語大賞という舞台は賞の格としても、周囲への影響力としても、申し分ない。

ADVERTISEMENT

　もうひとつの理由には「M-1グランプリ」の影響が多少なりともあった。

「もともと僕はお笑い芸人だったこともあって、M-1をずっと見てきました。比較するものでもないですけど、漫才師の人たちがM-1に懸ける熱量と、落語家が新人落語大賞に懸ける熱量は明らかに違うと思わざるを得ないわけです」

　M-1は、優勝すれば大げさではなく人生が変わる。

　だからこそ芸人たちはそのために1年間を通して同じネタを“叩き”続ける。そうして年末の決勝に向けて、ネタを仕上げていくのだ。だが、そんなことをする人は落語家にはまずいない。

「もちろん、ネタを叩くことは出来ます。出来ますけど、落語は高座によってお客さんの属性が違いすぎるんです。なにより、その都度でお客さんに楽しんでいただかないといけないわけですから」

野暮と言われようとも…「本気で」賞レースに挑んだ吉笑

　たしかにM-1の場合、ファンの方も芸人が勝負ネタを叩くプロセスを理解し、それを含めてネタが仕上がっていくことを楽しんでいる。だが、少なくともいまの落語には、そうした風土は存在しない。

　そんな中で吉笑は、あえてNHK新人落語大賞という「競技としての落語」で、本気で狙って勝ちにいこうとした。たとえそれが無粋といわれようとも、圧倒的な熱量を以て、冠を獲りにいったのだ。

　勝つために最も大切になるのは、ネタである。

　そう思っていたところに、出来上がったのが――「ぷるぷる」というネタだった。

＜次回へつづく＞

#2に続く

「なぜそれを落語でやるの？」が出発点…“偏差値70超の進学校→国立大の数学科入学”異端の落語家が「落語界のM-1」で勝つ“最強のネタ”を作るまで

#3

「M-1と決定的に違うのは…」“元は芸人出身”異端の落語家が振り返る“落語界のM-1”決勝戦の全内幕…「熱量が結果につながるのは、自明の理」

#2

「なぜそれを落語でやるの？」が出発点…“偏差値70超の進学校→国立大の数学科入学”異端の落語家が「落語界のM-1」で勝つ“最強のネタ”を作るまで

#1

「賞を狙うと公言するのも野暮」な世界で…ある異色の落語家が“落語界のM-1”を「狙って」獲りにいった意外なワケ「漫才師の熱量と明らかに違うと…」