ボクシング拳坤一擲BACK NUMBER

ボクシングの悲劇“死亡事故”はなぜ起きるのか?「致死率50%」急性硬膜下血腫を専門医が解説「急激な脱水…脳にリスク」「“2回目の頭部外傷”が危険」 

text by

渋谷淳

渋谷淳Jun Shibuya

PROFILE

photograph byGetty Images

posted2025/10/19 17:00

ボクシングの悲劇“死亡事故”はなぜ起きるのか?「致死率50%」急性硬膜下血腫を専門医が解説「急激な脱水…脳にリスク」「“2回目の頭部外傷”が危険」<Number Web> photograph by Getty Images

日本のボクシング界で相次ぐリング事故。スポーツにおける頭部外傷に詳しい脳神経外科医に要因を聞いた

「頭蓋骨と脳を橋渡しする静脈を架橋静脈といいます。架橋静脈は一方で頭蓋骨に固定され、一方で脳とつながっています。頭蓋骨は固定されていますが、脳は固定されていません。よく豆腐(脳)が鍋(髄液)に入れられているようなもの、とたとえられます。この状態で頭蓋骨が急激に外力(パンチなど)を受けたとき、頭蓋骨は動きます。ところがこのときプカプカと浮いている脳はその場にとどまろうとします。そこにズレが生まれる。ズレが生じると架橋静脈が引っ張られる。非常に強く引っ張られると架橋静脈が破断して出血します。架橋静脈は脳を覆う硬膜の中にあるので、急性硬膜下血腫となります。これを加速損傷と呼び、ボクシングの事故はほぼ加速損傷によるものです」

 急性硬膜下血腫が起きると脳が非常に危険な状態になる。そして最悪の場合は死に至る。

「なぜ命を落とすのかといえば、血腫の状態によって脳ヘルニアが起きて、生命に必要な脳幹部が損傷されるからです。頭は閉鎖空間ですから、血腫が中に広がるしかない。すると血腫によって脳幹部が圧迫されます。圧迫されると脳がゆがみます。脳幹部は意識や生命を司るところなので、そこが圧迫されると障害を起こし、死に至るというメカニズムです。急性硬膜下血腫の致死率はだいたい50%です」

「フック、アッパーが脳を強く揺らしやすい」

ADVERTISEMENT

 整理しよう。脳が強く揺さぶられることによって急性硬膜下血腫は起きる。乳児揺さぶられ症候群という言葉を聞いたことがあるだろうか。首が据わっていない赤ちゃんの頭部を激しく動かすことで生じる脳の損傷だ。あれはたとえ頭を叩いていなくても、揺れによって血腫が引き起こされるのだ。

「柔道やスノーボードでも急性硬膜下血腫は起きています。脳が強く揺さぶられて起きるので、たとえば柔道なら大外刈りで大きく頭部が揺さぶられることで起こりえます。ボクシングであれば角度のあるフック、アッパーカットが脳を強く揺らしやすいと言えるでしょう」

【次ページ】 減量との因果関係は?「エビデンスはありませんが…」

BACK 1 2 3 NEXT
#浦川大将
#神足茂利
#穴口一輝

ボクシングの前後の記事

ページトップ