将棋PRESSBACK NUMBER
藤井聡太vs伊藤匠23歳の“八冠独占”同学年対決…なぜカド番でも大棋士は強いか「藤井さんは勝負の結果や流れを」永瀬拓矢の興味深い証言
text by

田丸昇Noboru Tamaru
photograph by日本将棋連盟
posted2025/10/16 17:38
藤井聡太と伊藤匠。八大タイトルを分け合う23歳の2人の、1年間の歩みとは
〈第1局〉9月4日・シンガポール
海外対局の開幕局は伊藤に中盤で失着があり、藤井が快勝。
〈第2局〉9月18日・兵庫県神戸市
ADVERTISEMENT
激しい攻め合いとなり、藤井の猛攻を伊藤がきわどく受けた。終盤は藤井が優勢だったが疑問手が続き、伊藤が大駒を駆使して鮮やかに寄せ切った。
〈第3局〉9月30日・愛知県名古屋市
伊藤が銀を捨てて攻撃し、藤井の反撃を受けの強手で応じた。藤井は中段の竜で寄せに利かしたが、その竜を取られてしまい、伊藤が金を捨てる妙手で寄せ切った。この結果、伊藤が2勝1敗と勝ち越し、王座獲得まであと1勝と迫った。藤井がカド番に立ったのは、前期叡王戦に次いで2回目。
伊藤が用意してきた“あまり見ない手”の作戦
第4局は10月7日に神奈川県秦野市「元湯陣屋」で行われた。タイトル戦で数々の名勝負が生まれた由緒ある対局場である。新宿から小田急線に乗って約1時間と近く、多くの棋士や女流棋士が観戦に訪れたものだ。しかし2年前の王座戦(永瀬王座−藤井七冠)第1局のときは、藤井の八冠達成の話題でメディアの取材依頼が殺到し、棋士たちに業務以外での来場は控えてほしい、という異例の要請が主催者からあった。今年はそうした規制はなかったようだ。
第4局を迎えた時点で両者の対戦成績は藤井13勝、伊藤5勝。伊藤は11連敗した後、前期叡王戦から5勝2敗と勝ち越している。
戦型は角換わり模様。腰掛け銀か早繰り銀が予想されたが、後手の伊藤が10手目に△4四角と中段に上げた。あまり見ない手だが、用意してきた作戦だという。実は9月13日に将棋日本シリーズで佐藤天彦九段(37)との対局でも、6手目に同じ手を指した(結果は佐藤が勝ち)。
永瀬が語った「藤井さんは勝負の結果や流れを…」
後手は角を4四から6二~8四と転換する狙いがあり、通常の手順より1手早くなる。ただ実戦ではその展開に進まず、藤井は雁木(がんぎ)、伊藤は矢倉の駒組みを築いた。
藤井は中段の4六に角を据えた。攻めに利かして好位置である。伊藤の自陣の6二の角は受け身だが、相手の攻めに対してカウンターを狙っている。藤井は中盤で5筋から動いた。少し苦しいと思って先制したという。
伊藤は桂得に成功したが、藤井が5五から2八に角を引く手を軽視した。2九の飛車の上に引くのは良形ではないが、伊藤が期待した反撃を防いでいる。それ以降は藤井がペースを握った。

