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田中希実は「メダル獲ったらどうしよう」久保凛は「何もかもうまくいきませんでした」…世界陸上“2人の中距離エース”に感じた「正反対の言葉力」
text by

生島淳Jun Ikushima
photograph byNanae Suzuki
posted2025/09/25 06:02
世界陸上5000mで決勝進出を果たした田中希実と、800mで予選落ちに終わった久保凛。レース後、タイプは違えど興味深い言葉を紡いだ
「後ろにつけてスローペースというのは、自分はぜんぜん経験したことのないレースでした。その中でごちゃごちゃとしたり、バランスを崩したり。そこも海外のレースは当たり前だなと思うので、もっと海外の試合にも出て経験を積むことが必要かなと思います」
今回、世界陸上を見ていると、中長距離、マイルリレー、マラソンに至るまで、海外勢の体をグイッと入れてくる「割り込み」に対して、有効なカウンターを繰り出せなかった日本の選手が目立った。
日本のレースは、基本、譲り合う。育ってきた社会が優しいのだ。ところが海外勢は肘を中心に、あらゆる接触を厭わない。久保にはまだ、グイッと行ける胆力が備わっていなかった。
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スローペースになると、ラスト200mでのスピードが勝負となる。久保は見せ場を作れなかった。
「スローペースになっても、ラストでついていけるような力も必要だなと感じましたし、それを分かっていても出来ないです。一から自分を磨き直して、もっと強い久保凛を見せられるように頑張りたいです」
2人の中距離エースに感じた「言葉の力」
今回、あらゆるシナリオは想定出来ていたが、対応力が備わっていなかった。しかし、高校3年生で世界陸上の舞台を走り、なおかつ、これだけ正確にレースを把握し、課題を抽出できるところに久保の可能性を感じる。さまざまな角度からレースを言語化できる田中とタイプは異なるが、この端的さもクレバーさの現れといえるだろう。
果たして久保は、田中希実のような実の詰まったスピーカーになることが出来るだろうか?
彼女の進路も気になるところだが、海外のレースでどれだけ揉まれ、どんな表現ができるようになるのか。田中というロールモデルがいるだけに、久保のこれからの表現力にもさらに磨きがかかっていくことを期待したい。

