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「衰えてるどころか、むしろ…」タパレスが見た井上尚弥の"完璧な準備"「KOではなく判定勝ちだよ」じつは“直前スパー”で予言していた衝撃の12R
text by

杉浦大介Daisuke Sugiura
photograph byHiroaki Finito Yamaguchi
posted2025/09/22 11:08
アフマダリエフを前に気合いを入れる井上尚弥。この後、完璧な12ラウンドが披露される
「イノウエからは『MJの危険なパンチはどんなものか』『どういったパンチが得意なのか』『オーバーハンド、フック、ストレートの中ではどれが強いのか』といった質問を受けた。私の経験を辿り、『オーバーハンドとフックが危険なパンチだ』と答えた。
「イノウエがルイス・ネリ戦やラモン・カルデナス戦でダウンを喫したのもそのパンチだったしね。私たちの会話はそれくらいで、彼はトレーニングに没頭していた」
「範馬刃牙みたいだった(笑)」
今戦に至るまでアフマダリエフに黒星をつけた唯一のプロ選手だったタパレスを自身のキャンプに招いたこと自体から、井上の本気度は感じられた。器用で聡明な元王者の知恵と力を借り、丹念に準備を進めた。その過程で、タパレスは井上が自身と戦った時とは毛色の違う戦い方を用意していることに気づいたのだという。
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「イノウエが根本のところで変わったとは思わないけれど、今ではスキルがさらに増し、インテリジェンスも高まっていると思った。ダウンの経験から多くを得たんだろう。今の彼はより賢明に戦うようになっているし、スキルレベルも極めて高いよ」
世界最高級のボクサーと一緒に練習したタパレスには、井上が今戦で目論んでいる戦い方がはっきりと見えていたに違いない。軽量級選手としては特筆すべき強打を持ったアフマダリエフに的を絞らせず、カウンター、連打のチャンスも与えない。深追いは避け、あくまで冷静かつ丁寧に12ラウンドを戦い切る――。
「イノウエは筋肉が本当にすごくて、日本の漫画『グラップラー刃牙』の範馬刃牙みたいだった(笑)。パワーもすごいし、コンディションは100%だったよ」
タパレスの言葉通り、破壊力と良好なコンディションを保った井上はその気になればKOを狙いにいくことも可能だったはずだ。ただ、それをすることで相手にわずかなチャンスを与えることになるだけに、今戦のテーマはそこではなかった。タパレスはそれに気づいていたからこそ、事前に“判定勝利”を予想したに違いない。



