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「衰えただの、ピーク過ぎただの…」井上尚弥本人も感じていた“アフマダリエフ戦前の異様な空気”のナゾ…限界説を覆した完勝のウラに「敗者の誤算」

posted2025/09/17 17:02

 
「衰えただの、ピーク過ぎただの…」井上尚弥本人も感じていた“アフマダリエフ戦前の異様な空気”のナゾ…限界説を覆した完勝のウラに「敗者の誤算」<Number Web> photograph by Hiroaki Finito Yamaguchi

9月14日、「最大の強敵」と言われたアフマダリエフに勝利した井上尚弥

text by

曹宇鉉

曹宇鉉Uhyon Cho

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photograph by

Hiroaki Finito Yamaguchi

「誰が衰えたって?」アフマダリエフに勝利した夜、井上尚弥は問いかけた。戦前にあった限界説、マスコミの異様な緊張感……王者はそのすべてを、いかに覆してみせたのか?《NumberWebドキュメント全2回の後編/前編も公開中

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 結論から言えば、井上尚弥は別次元のボクサーだった。

 9月14日、井上はIGアリーナのリングでムロジョン・アフマダリエフと対峙した。アフマダリエフの体は計量時ほど大きくは見えない。20時13分のゴングと同時に、大歓声が響きわたる。

「すげえ…」記者席から漏れたため息

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 1ラウンド、互いに細かいフェイントを織り交ぜながら、慎重にパンチを交換する。ラウンド終了間際、アフマダリエフが右、左と大きなフックを振り回して前進すると、その迫力に観衆がどよめく。だが、バックステップでパンチを外した井上のコンパクトな左フックだけが的確にヒットする。この時点で、多くの観衆が両者のスピードの違いをはっきりと認識した。

 2ラウンド、3ラウンドと慎重な駆け引きが続くものの、手数も正確性も井上が上回っている。とにかく足がよく動く。足を止めて打ち合いに応じていた過去数試合とは明らかに違う。井上の出入りの鋭さに、アフマダリエフはパンチを放つタイミングを逸し続けている。4ラウンドの終盤には、井上の右ストレートが堅牢なガードをすり抜けて顔面をとらえた。

 5ラウンド、残り40秒。ガードを上げて直線軌道のパンチを警戒するアフマダリエフに対して、ワンツーからの左フックが側頭部にクリーンヒットする。さらに6ラウンド、ロープ際で5連打を放ち、この試合で初めてと言っていい好機の匂いを嗅ぎとったアフマダリエフに対し、井上は右フック、左ボディ、右アッパー、左ボディ、右アッパー、左ボディの強烈な6連打を返した。左ボディ3発をまともにもらい、棒立ちになるアフマダリエフ。一瞬にして会場のボルテージが高まり、記者席からも「すげえ……」とため息が漏れる。

 ここまでの採点はどのジャッジもフルマークで井上か、落としていても1ポイントだけだろう。試合前の不吉な予感は、リング上の光景によって完全に払拭されていた。それほどまでに井上のボクシングは完璧だった。

【次ページ】 アフマダリエフの誤算

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