- #1
- #2
ボクシングPRESSBACK NUMBER
井上尚弥が言及「限界説」はなぜ拡散されたのか? 不気味なアフマダリエフ、試合当日の波乱…マスコミの間で静かに漂っていた“不吉な予感”の正体
posted2025/09/17 17:01
9月14日、「最大の強敵」と言われたアフマダリエフに勝利した井上尚弥
text by

曹宇鉉Uhyon Cho
photograph by
Hiroaki Finito Yamaguchi
◆◆◆
本当に55キロ? あの体で?
記者席から驚きの声があがった。1492人のファンが駆けつけた9月13日の前日計量。ムロジョン・アフマダリエフは目を大きく見開き、ボディビルダーのように筋肉を誇示した。身長はほぼ変わらないが、200グラム重い55.2キロで計量をパスした井上尚弥よりも一回り首が太く、上半身に厚みがある。少なくとも、ダウン経験なしの耐久力に疑いの余地はない。
ADVERTISEMENT
計量後の囲み取材で、井上はアフマダリエフと向き合った印象を淡々と語った。
「仕上がってますね。ここからリカバリーもしてデカくなると思うんで、楽しみです」
日本での試合は1月のキム・イェジュン戦以来だが、同試合の計量時よりも頬がこけ、そのぶん精悍さが増したように見える。抑えきれない昂りが漏れ出したのか、うっすらと笑みを浮かべた。
「久々ですよね、この感じは。フルトン戦、ネリ戦、あるいはそれ以上。実力的には一番評価しているし、それが自分のモチベーションもすごく引き立ててくれて、まあ、ちょっと段違いですね」
井上を囲む記者たちのまとう空気がわずかに弛緩する。この精神状態で試合に臨むかぎり、モンスターが負けることはないだろう。だが、それでもなお完全には拭いがたい不安が、胸裡にくすぶっているのも確かだった。
流布された「限界説」
驚異的な戦歴を誇る4団体統一王者に対して、なぜこうも不安を抱くのか。もっとも大きな要因は、5月4日にラスベガスで行われたラモン・カルデナス戦でのダウンにある。井上が2ラウンドに浴びた左フックは、カルデナス陣営によって周到に準備されたものだった。カルデナスを指導するトレーナーのジョエル・ディアスは、アフマダリエフのトレーナーを務めるアントニオ・ディアスの兄であり、今回の試合でも参謀役を任されている。ジョエルの頭脳という武器を携えたアフマダリエフ陣営が、なんらかの策と勝算をもって井上に挑もうとしていることは明白だった。

